東日本大震災、東京電力福島第1原発事故からまもなく4年。事故収束の遅れ、廃棄物の処理問題、先行き不透明な避難生活ばかりでなく、治安の悪化を心配する県民も少なくない。(黒沢通)
◆地元住民と摩擦
福島には「復興の仕事」を求め、全国から多くの労働者が集まる。「福島の復興のために働いてくれる真面目な人が大半」(県警関係者)だが、地元住民との摩擦も増えている。
「作業中に屋根など家屋の一部が壊された」「重機で自動車を傷つけられた」「植木鉢が割られた」などの「苦情は多数ある」(福島市の除染推進室)。県の除 染対策課も「トラブルは発注者の市町村と業者間で対応するが、不測の事態はある」と話す。また「他県ナンバーの車が増えて、運転が荒い」「見知らぬ作業員 が敷地に入り、ものがなくなった」という被害届も警察に寄せられた。
平成26年の刑法犯件数は、1万4317件(前年比279件減)で 12年連続減少したが、昨年1月から11月末に検挙された除染作業員(本人の申し立て)はのべ197人(再逮捕を含む)で、前年同期比で63人増。24年 (のべ26人)に比べて7倍超となった。容疑は窃盗61人、傷害36人、覚せい剤取締法違反22人。県外出身者は65%を占めた。
除染作 業員募集の広告には「宿舎は老舗旅館」をうたうものも少なくない。福島市内の温泉街で働く女性は「お風呂で入れ墨を見て怖かったという客の話を聞いた。夜 の飲食店ではけんかも少なくない。観光客数も震災前に戻っていないので悪い評判が立つのは困る」と話す。市内の飲食店でも作業員の数が増え、トラブルが起 きている。地元の会社員は「新しい飲食店の中には、よそからきた作業員向けの店もあるようだ。怖くて入れない」という。
除染業者の法令順 守意識も問題となっている。労働局の調査でも除染作業を行う660業者のうち、67%超の446業者で賃金未払いや作業現場の放射線量事前調査を行わない など法令違反があったと発表。25年6月には18歳未満の少年を雇用し社長が逮捕される事件も起きるなど、トラブルや事件への不安から除染作業員宿舎建設 計画に対する住民の反対も相次いだ。
◆暴力団の介入も
国と市町村合わせ1兆4千億円を超す予算(23~26年度)が投入 される除染事業をめぐって、反社会的勢力の介入が顕在化している。25年1月には山形県警が伊達市の除染作業に無許可派遣の疑いで暴力団幹部を逮捕。この 事件では作業員の報酬の3分の1程度が暴力団側に流れ、容疑者は「除染作業は日当が高く、もうかると思った」と供述した。10月には宮城県警が福島市発注 の除染事業現場に作業員を違法派遣したとして元指定暴力団系幹部の男ら5人を逮捕した。
企業側は「業者との契約では、暴力団を介入させない」としているが、多重下請けの構造と人手不足を背景に、反社会的勢力の入り込む余地を生んでいる。