都市部から地方へ移住を希望する人を対象に、現在使われていない空き家物件の情報を提供する「空き家バンク」。移住促進を目指す地方自治体と住宅確保を図りたい移住希望者をつなぐ懸け橋として、多くの地域で導入されている。一方で、バンクの登録物件と移住者の希望が一致しない需給のミスマッチや興味本位の問い合わせが殺到したりするなど、課題も出てきている。(森本昌彦)
◆問い合わせ殺到も…
茨城県北部に位置する大子(だいご)町。田畑が広がる一角に空き家だった家がある。住宅の名称は「おためし住居」。田舎での生活を希望する人が一定期間暮らせる住宅だ。
現在は沖縄県からの移住を希望する女性が住んでいる。女性は「田舎で暮らしたいと思っていたが、家や近所の雰囲気を見ないと本当にそこで暮らしていけるか分からない」と、おためし住居を選んだ理由を話す。
この事業を運営するのは財団法人グリーンふるさと振興機構(常陸太田市)。茨城県北部の7市町への定住促進のため、機構はおためし住居以外に「田舎暮らし空き家情報バンク」と題し、空き家情報を提供している。
しかし、今年に入ってホームページ上での情報掲載はやめた。インターネットで簡単に情報を見られる気軽さのため、興味本位での問い合わせが多く、対応に追われるうえに定住促進につながらないからだという。調査役の佐藤秀雄さんは「ただ空き家を見てみたいという人が大半」。現在はなるべくおためし住居での生活を勧めたり、希望者の話をじっくり聞いたうえで空き家情報を提供している。
◆物件確保に苦慮
需給のミスマッチという問題もある。平成18年9月に空き家バンクを開設し、これまで延べ47件の成約実績を誇る山梨県山梨市のバンクには4月30日現在、19件の空き家情報が登録されている。だが、同市市民生活課まちづくり協働担当の平野宗則さんは「需給のギャップがあり、常に空き家を探さないと厳しい」と話す。
19件のほとんどが売却物件だが、移住希望者のニーズは賃貸というケースが増えているのが理由だ。情報収集のため、自治会の区長らが集まる席で物件の確保をお願いしているという。
物件確保の難しさは調査結果でも表れている。財団法人地域活性化センター(東京都中央区)の昨年9月のアンケート調査によると、移住・交流促進施策を実施している市町村の54・4%が空き家バンクを実施しているが、67%の市町村で登録件数は10件未満。開設からの累計成約件数については、10件未満という市町村が66・1%に上り、制度自体の広がりに比べ、実績は伸び悩んでいる。
空き家バンクについて、同センター振興部コンサルタント業務課長の石橋義浩さんは「移住・交流をするには住むところがないとどうしようもなく、その意味で大きい」と意義を説明。登録物件の少なさや認知度不足を課題に挙げ、地元住民の理解獲得や制度のPRの必要性を指摘している。
■認知度低迷 8割「知らない」
地域活性化センターの今年1月の調査によると、移住・二地域居住に関心のある人のうち、83・3%が空き家バンクの存在を「知らない」と回答。物件探しを経験している人に限定しても77・8%が存在を知らないとしている。
空き家バンクを物件情報収集の手段として活用・選択しない人に理由を聞いたところ(複数回答)、20・2%が「空き家バンクを知らないから」とし、認知度の向上が求められている傾向が浮かび上がっている。