徳島県発祥の移動スーパー「とくし丸」が東北でも営業エリアを拡大している。各県のスーパーと提携したスタッフが軽トラックで集落を回り、商品を販売する現代版「ご用聞き」。運転免許の返納などで店舗に向かう手段が限られた高齢者らの利便性が向上し、行政も少子高齢化が進む地域社会を支援する流通モデルとして期待を寄せる。
事業は、徳島市に本部を置くとくし丸が全国のスーパーとフランチャイズ(FC)契約を結んで運営。各スーパーと提携した「販売パートナー」の個人事業主がドライバー兼販売員として地域を回る。1商品当たり定価プラス10円で販売し、得た利益をスーパーと販売パートナーで分け合う。
宮城、山形両県で61店舗を営業する「ヤマザワ」(山形市)は、昨年6月から山形県内でとくし丸事業を展開している。今月2日には、主に南陽市を担当する5号車が運行を開始。ヤマザワでは女性初の販売パートナーとなる地元在住の布施舞美さん(46)が荷台に食品や日用品など約800種類を積み、申し込みがあった70~90代の118人が暮らす世帯を回った。
布施さんは「お客さまから『楽しみに待ってる』『助かる』と喜んでもらっている。直接出向き、顔を見て会話しながら販売できるのが魅力」と言う。
市も補助金を支給して布施さんの創業を支援。運行初日の出発式には白岩孝夫南陽市長も出席し、「事業は社会課題の解決そのものだ」と語った。
ヤマザワの古山利昭社長は「店舗に足を運べない高齢の方に対面で買い物を楽しんでほしい」と強調。将来は「20台ほどに拡大し、いずれは宮城でも展開したい」と意欲を見せる。
とくし丸の本部は2012年設立で、現在は全国のスーパー142社とFC契約を結び、約800台が運行している。東北では11社が事業を担う。
Aコープ東北(盛岡市)は15年に加わり、岩手、宮城、山形3県で16台を運行。担当者は「最初は高齢者の見守りの一環としてスタートしたが、現在は地域の発展に貢献する当社の経営理念に沿って続けている」と説明する。
とくし丸本部の担当者は「少子高齢化は全国共通の課題で、日々の買い物に困っている人はどこにでもいる。東北は全てのエリアをカバーできておらず、開拓の余地はある」と話す。