【マンション業界の秘密】新築マンションの販売状況については、それを専門に調査する会社がいくつかある。毎月のように販売戸数や売れ行きについての数字が発表されるが、それを実数だと思っている業界関係者はいない。なぜなら、それらはすべて調査対象各社の「自己申告」をベースにしているからだ。
だから、新築マンションの初月契約率が70%を超えると好調で、それ以下は不調などという目安があるが、あの数字が50%を切ったことなど過去に何回あっただろう。
実際の販売現場では、売り出し戸数の半分以上が初月に契約できないなんてことは日常茶飯事である。
現在、新築マンションは首都圏、関西圏ともに販売不調で、在庫がどんどん積み上がっている状態だ。
気になる話を聞いた。ある大手デベロッパーが「特販部隊」を編成したという。その会社はマーケティングと営業力には定評がある。自社開発物件は竣工までにほぼ完売させてきた。
逆に言えば、竣工が見えてくると「なりふり構わず」という営業に切り替えて、大胆な値引きを行うことで知られていた。
それが昨年の春以降、値引きを控えだしたのだ。財閥系の某大手不動産のように、在庫になることをいとわず、竣工後何年でも値引きなしの販売を続け、分厚い利益を得ようと考えたらしい。
だが、たった半年で方針変更。積み上がる在庫に我慢も限界に達したらしい。そこで、元の「値引きをしてでもいいから完売させろ」という営業姿勢に戻ってしまったというのだ。
加えて、全国から練達の営業マンを呼び寄せて「特別販売チーム」を結成。今から年度末に向けてしゃかりきに在庫を売りまくるのだそうだ。
本来、営業力の強いその大手デベロッパーにして、そこまでしなければ在庫を整理できない状態に追い込まれているのだから、中堅デベロッパーは推して知るべし。新築マンション業界に、また「値引きの季節」が到来したともいえる。
あの暗い閉塞感が漂っていた旧民主党(現民進党)政権時代に比べて、自民党の安倍政権に代わってから約4年。世の中の空気は多少明るくなったが、マンション市場は実需を伴わない値上がりが続いた。それでも、外国人や相続税対策の投資需要で何とかつくろってきたというのが実情だろう。
その間、個人所得は増えていなかったが、住宅ローン金利の低下によって多少値上がりした新築マンションでも一般消費者は何とか買えた。
しかし、それもとうとう限界に達したのが今ともいえる。だから、値上がりの激しい局地バブル地域では、在庫が日々積み上がっている。高くて売れないのだから、価格を下げるしかない。つまりは値引きになる。
今年は大手や中小に限らず、新築マンションの値引きが目立つようになる。一般消費者はよく市場を見据え、値引きを引き出せる物件からは、目いっぱいの値引きを獲得すべきだろう。そういう意味ではチャンスかもしれない。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンション格差」(講談社現代新書)など多数。