積水ハウス、初の街区を越えた電力供給 宮城県東松島市スマート防災エコタウン

地産地消の先駆モデルに

160418sankei.jpg 太陽光パネルが並ぶ宮城県東松島市の災害公営住宅「柳の目東住宅」。街区外の病院などにも電力を供給する(積水ハウス提供)

東日本大震災で大きな津波被害を受けた宮城県東松島市。積水ハウスが設計・施工を手がけた災害公営住宅で、本格的な“エネルギーの地産地消”に向 けた取り組みが5月から始まる。団地内に設置された太陽光パネルで発電した電力を、自営線を使って近隣の病院などへも供給する「スマート防災エコタウン」 の誕生だ。震災以降、街全体の電力利用をIT技術で効率化する「スマートシティ」が全国的に増えているが、街区を越えた電力融通に踏み切る例は初めてとい う。

「電力などのエネルギーを購入するということは、『地域の富の流出』ともいえる」

こう指摘するのは、積水ハウスで環境推進部長と温暖化防止研究所長を兼務する石田建一常務。同公営住宅の取り組みを通じて、「電力の地産地消によって地元にお金が回り、経済の活性化に役立つ『東松島モデル』を進めたい」と語る。

今回、全国でも初めての試みが始まるのは市営柳の目東住宅。水田を造成した約4ヘクタールの敷地に戸建て住宅70戸、集合住宅15戸が並ぶ。計画人口は247人で、昨年8月に入居が始まった。

集合住宅の屋根上や敷地内の調整池に設置した太陽光パネルは、一般家庭100世帯以上の消費電力に相当する計460キロワット分の最大発電能力を 持つ。この電気を団地内の各世帯や集会場に供給するほか、市が引いた専用の自営線で送電し近隣4カ所の病院や公共施設で使う電力の一部もまかなう。

夜間や悪天候の際は共用の大型蓄電池に貯めた電力を使い、不足する場合は市内のゴミ焼却場など「低炭素排出型発電所」から電力を購入。これにより二酸化炭素排出量を年間256トン削減できるという。

非常用のバイオディーゼル発電機も設置、大規模停電が起きても蓄電池と組み合わせて3日間は普段通りに電気を使える。その後も、供給先を団地内の集会場などに絞れば数日間の自活が可能だ。

毎年の利益は数百万円

環境に配慮した大規模なスマートシティとしては、三井不動産が街区内のマンションと商業施設などで電力を融通できるようにした千葉県柏市の例や、パナソニックなどが神奈川県藤沢市で手がけ、全戸に太陽光パネルや蓄電池を備えた例などが知られる。

それらと比べ東松島市の団地は規模が小さいし、画期的な新技術を用いたわけでもない。しかし自営線を引いて街区外まで送電する試みは初めて。プロ ジェクトリーダーを務めた積水ハウスの石田常務は「コストの積算から、電柱や自営線の工事をしてくれる業者探しまで、すべてが手探りだった」と振り返る。

一連のシステム構築にかかった費用は5億円で、そのうち45%は環境省の補助金交付を受け、25%を市が持ち出した。しかし東北電力から購入した際の電気料金との差額から、東松島市には毎年数百万円の黒字が発生する。その利益を地域振興などに振り向ける。

街区外の病院などへの送電は、大手電力会社の電線を使えば託送料がかかるが自営線を使うため無料。こうして設備投資額を20年以内に回収できるスキームに仕上げた。

電力の自給自足はエコの観点だけでなく防災面からも重要だ。2014年12月に四国を襲った大雪では停電による集落の孤立が相次ぎ、地方は大都市 以上に災害への備えが必要といえる。同市の阿部秀保市長は「市民の命を守るためには、災害時のエネルギー確保が不可欠だ。安全・安心なまちづくりの新しい モデルになるだろう」と期待を込める。(山沢義徳)

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