空いているのに隣に来る“トナラー”の心理

通勤電車や飲食店の座席が「がら空き」なのに、わざわざ自分の隣に寄ってくる──そんな人を巷では“トナラー”と呼ぶらしい。彼らはなぜ、誰かに寄り添いたがるのか。

「納車されたばかりの車でスーパーに行った時のこと。せっかくの新車に傷をつけられたくないので駐車場奥のがら空きのエリアに停めたのですが、買い物から戻ると真横によその車が停まっていたんです。荷物を積むのにもドアが開けづらいし、なぜ、あえてここに停めるのかと腹が立ちました」(埼玉県在住のA氏)

 駐車場に限らず、こうした経験をした人は多いはず。この現象は、3月15日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)でも取り上げられ話題となった。

 同番組コメンテーターの松本人志は、「(遭遇した経験が)すごくあります」と明かし、スポーツジムのマシンや駐車場、映画館、男子トイレでの“トナラー体験”を熱弁。「俺は絶対にしない」「めちゃめちゃ腹立つ」と興奮気味にまくしたてた。

 他者に不快感や不安を抱かせることもあるこの行為。どのような心理が働いているのか。

「基本的には個人の性格、育った環境によるところが大きいと考えます」

 そう分析するのは、臨床心理士の植木理恵氏だ。

「一般的に“トナラー”には、整理整頓をするように“端から詰めて座らないと気が済まない”という神経質な人が多いと思われます。他には“このあと混雑してきたら他人から詰めろと言われないか”といった『予期不安』を抱えている人も少なくありません。そうしたケースでは、“先にいる人がどう感じるか”には思いが至らず、席を詰めて座ったことで自分が安心するのでしょう」(植木氏)

 がら空きの男子トイレでもわざわざ自分の隣の小便器に来て用を足す人がいるが、決して悪気はないという。

「排泄行為に関しては、幼少期の躾なども関係すると考えられます。心理学者のフロイトによれば、排泄について厳しくしつけられた人と、そうでない人では性格に大きな違いが生まれるといいます。トイレトレーニングが厳しい家庭で育った人は几帳面な傾向が強いため、“奥から詰めて用を足さないといけない”という意識が働いてしまうのかもしれません」(植木氏)

 そもそも“トナラー”という言葉を聞くようになったのは比較的最近のこと。冒頭の駐車場のようなケースがネット掲示板で紹介され、全国的に広まったという。

 他が空いているのに車を隣に停めるのは「運転が苦手な人は、隣に目印(となる車)があると停めやすいから」という意見もあるが、立正大学名誉教授(心理学)の齊藤勇氏はこんな見方をする。

「駐車場でわざわざ隣に停めるのは、人目のない場所より“イタズラや車上荒らしに遭いにくい”という心理が働いているのではないでしょうか」

 また、飲食店やスポーツジムでの“トナラー行為”は、定位置への「こだわり」や、他者との関わりを求める「社会的欲求」が影響している可能性があるという。

「たとえばジムなどでは“いつも使っているマシンを使う”と決めている人もいるでしょうし、自分の運動能力を“他人に見せたい”あるいは単純に“会員同士でコミュニケーションをとりたい”という場合もあるでしょう。とはいえ、ガラガラなのにわざわざ隣に来る人は『パーソナルスペース』に無頓着なのかもしれません」(齊藤氏)

 パーソナルスペースとは、それぞれが持つ「縄張り意識」のようなもの。米研究によれば、自身の45cm以内に近づいても不快ではないのは恋人や家族などの近しい人のみ。職場の人などは120~350cm程度が心地よいのだという。

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