『ワイドナショー』、『とくダネ!』(ともにフジテレビ系)など、気がつけばコメンテーターとしてさまざまな情報番組に出演している社会学者・古市憲寿(ふるいち・のりとし)氏(33歳)。番組に出演するたびに失言&暴言を連発し、中高年からすれば“生意気な炎上コメンテーター”としての立ち位置も定着しつつあるが、『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)では密着取材が組まれ、佐藤健、小泉進次郎、田原総一朗といった幅広すぎる交友関係や、嫌いな人には「誠意を持ちすぎないのが大事」などの持論が紹介され話題になった。古市氏の“炎上”が重宝される理由について探ってみた。
【ランキング表】くせ者コメンテーターをさばく猛獣使い? “朝の顔”ランキングTOP10
■徹底的に空気を読まないことで勝ち得た、確固たる地位
古市の“炎上履歴”を振り返れば、全米オープンテニスで優勝した大坂なおみ選手がアリーナ立川立飛で行なわれた大会に出場すると、さっそく『とくダネ!』で「なんで立川“なんか”で(試合を)やらないといけないんですか?」と発言、「立川をバカにしないでください」、「非常に不適切な発言ではないですかね」と炎上。同番組のMC小倉智昭も古市との関係は良好のようで、ときに茶目っ気を含んだ掛け合いを見せているが、「打ち合わせのときに『これはあんまり言えないけど』って言うと、必ず本番でぶっ込んでくる。『何考えてんの?』っていうくらい。ちょっと最近いい気になりすぎてる」とラジオ番組でぼやいていた。また、古市が準レギュラーともいえるほどに出演する『ワイドナショー』では、『M‐1グランプリ』の審査員である松本人志を前に「M‐1が悪いんじゃなくて“M‐1が好きな人”が苦手」とも言い放っている。
今年6月に中継された『第10回AKB48世界選抜総選挙』(フジテレビ系)では、指原莉乃とともになぜか副音声を担当した古市は、指原が「この子は女子力が高くて本当にかわいくなった」とコメントすると、すぐさま「去年までブスだったんですね」と返す。さらには「結果的には、(総選挙は)すごいおもしろかったです。だって女の子が鼻水たらして、本気でなんかやり合うんですよ。そんなシーンなかなかないじゃないですか。本気の泥仕合というか」とまで言い、後日別番組で共演した嵐の櫻井翔をして「(5年前に共演した選挙特番では)こんな人じゃなかったですよ。めちゃめちゃ、まともでしたよ」と言わしめたのだ。
こうしてみると、古市は思っていることをズケズケと言うタイプであり、炎上することに屈しない“鈍感力”や“無関心”を持ち合わせ、結果的に「炎上コメント“芸”」にもなっているようだ。そして、空気を読めない(読まない)ことを徹底することで、ネット住民たちに炎上の燃料を投下する、いわば“炎上界のガソリンスタンド”のような存在にもなっているのかもしれない。
■炎上だけでは終わらない、ある意味筋の通った提言に共感の声
ただ、古市が放つ一連の“暴論”に一本筋が通っているときがあるのも事実。先述の『人生が変わる1分間の深イイ話』での「嫌いな人がいたら“サンプル”だと思って接する。サンプルなら好きにも嫌いにもならない」、「逆に断られもいいぐらい、たくさん(食事などに)誘ったほうがいい」などの発言は、人付き合いの苦手な人にとってはひとつの指針となるかもしれない。また、『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)では、「家族は(自分で)選んだ人じゃないから仲良くない人も多い。無理矢理仲良くする必要はない」などとも語っているが、その背景には古市自身が子ども時代、バイキング形式で家族が好きな時間に好きなものを別々に食べていたという超個人主義的な生活環境があるようだ。言ってみれば、“超合理的”なのである。
実際、こうした古市の発言に対して、「これから会いたい人には積極的に自分から誘おうと決めた」、「古市さんの好感度が上がった」、「無理に仲よくする必要はないと言ってもらえると救われる子もいると思う」、「家族についての価値観に共感」等々、視聴者からの共感の声も集まった。また、辛辣な発言をする“嫌われ役”にも、(表立っては言えないけど、その気持ちすごいわかる)という“隠れ支持者”がいることもよくある話。「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ…」じゃないが、そんな停滞した空気を切り裂く“爽快感”が古市の発言にはあるのかもしれない。
古市がコメンテーターとして出演する番組を見ていると、先述した小倉や松本も古市の忖度しない発言を重宝し、脅威としながらも温かく見守る雰囲気が伝わってくる。トピックスについてどう思うかまず振ってみて、古市がコメントを投下したところで激論の流れになるのがお決まりのパターンにさえなっているのだ。大炎上したとしても番組自体が批判されるわけではなく、矛先はコメンテーターである古市に向かう。周りへの忖度を一切せずに無関心をつらぬく古市だからこそ続けられる所業である。
■起用の背景には、痒いところに手が届く“コメントの爽快感”
そして今、短時間で気の利いたことを言わなければならないコメンテーターには、たとえ炎上しても“即効性”のあるネタが必要だ。実際、炎上をものともしないコメンテーターたちが続々と各局で起用されている。『ひるおび』(TBS系)に出演する落語家の立川志らくも、「こんな卑劣な落語家いらない」などとネットで叩かれることが度々あるが、本人はあえてエゴサーチしていると語り、「自分の発言がスルーされてたら意味がない。自分の意見に対して賛同や反発など世間に何か影響を与えている」ことを確認しているという。
『news zero』(日本テレビ系)にダボダボT シャツと雪駄姿で出演して炎上したメディアアーティストの落合陽一も、翌日のAbemaTVの『けやきヒルズ』に突如乱入、「日本人がスーツを着ていないといけないという考えから、見た目とか雰囲気に惑わされずに正しいことを言えるかどうかが大切。スーツを着て来た人の信頼性が高かったら、うさん臭いことを言ってもいいってことになる。それはよくないでしょ」と“超正論”をぶった。
さらに『スッキリ』(日本テレビ系)に出演する幻冬舎の編集者・箕輪厚介も、コメンテーターとしては新鋭と呼べる存在だが、『死ぬこと以外はかすり傷』という自著もあり、かなり“尖がった”発言をするなど、炎上前のきな臭さがプンプンしている。こうしてみると、テレビ局側も「何もないよりは炎上のほうがマシ」という“炎上需要”を期待している節が見てとれる。
先ほど古市を“ガソリンスタンド”と評したが、本物のガソリンスタンドは消防法や建築基準法で厳正に強度や耐火性が求められており、意外にも大地震の際には安全な避難場所だともいう。古市も同様、危険なガソリン(発言)を扱いながらも社会学者としての教養や、無機質っぽい“仮面”の下に隠された人情、空気を読む気ゼロに見える裏にあるしっかりした計算など、ギリギリセーフの線を守っており、制作側にしても実は安全で起用しやすい存在なのかもしれない。これからもよい意味でますます“炎上”していくことが予想される。