立憲民主が自民批判メディアに1000万円提供?「ブーメラン」が繰り返される理由

立憲民主党が「公共メディア」にお金注ぎ込みネガキャン?

またしても特大ブーメランがきれいな放物線を描いて後頭部に突き刺さってしまった。ここまでくるともはや「お家芸」と言っていい。

テレビの報道番組や映画、ドキュメンタリーを制作している有志の方たちが運営しているネットメディア「Choose Life Project」に、1000万円以上の「番組制作費」を突っ込んでいた疑惑が持ち上がっている立憲民主党のことだ。これは、同メディアに出演していた、ジャーナリストの津田大介氏、望月衣塑子氏、エッセイストの小島慶子氏などが連名で公開した「Choose Life Projectのあり方に対する抗議」で明らかになった。

このメディアはホームページで、「自由で公正な社会のために」というスローガンを掲げて、「公共のメディア」を名乗っているのだが、そこでは自民党を厳しく追及するような、クセの強いコンテンツも少なくない。例えば、こんな調子である。

●「桜を見る会」疑惑。安倍前総理、どう責任をとる?(20年12月22日)●7年8ヶ月 戦後最長政権の終焉 安倍政権とはなんだったのか(20年8月28日)

●これは、憲法違反である。#日本学術会議への人事介入に抗議する(20年12月4日)

津田氏らの調査では、1000万円以上の制作費は20年春から半年にわたって提供されたという。そのため、これらの自民批判コンテンツも立憲民主マネーで仕掛けられたものではないか、と見る向きもあるのだ。

と聞くと、「ん? そんな話ちょっと前にもなかったっけ?」と感じる人も多いだろう。そう、実はこれとほぼ同じ構図の疑惑が自民党にも持ち上がっており、立憲民主党は厳しく追及をしている真っ只中なのである。

立憲民主党の議員らを誹謗中傷していたTwitterアカウント「Dappi」に、自民党マネーが流れていたのではないか、といういわゆる「Dappiゲート」である。

「Dappi」の批判をしていた立憲民主に華麗なブーメランか

ご存じのない方のために、「Dappiゲート」を簡単に説明をすると、フォロワー数17.9万人という影響力を誇る「Dappi」はプロフィールに「日本が大好きです。偏向報道をするマスコミは嫌いです。国会中継を見てます」とあるように、愛国心あふれる方たちの溜飲を下げる野党攻撃を繰り返していた。

そこで小西洋之・参議院議員と杉尾秀哉・参議院議員が名誉毀損で訴えたところ、驚くような事実が明らかになった。発信元回線契約をしていたWEB制作会社が、自民党と取引があることがわかったのである。

「しんぶん赤旗 日曜版」や「Buzz Feed Japan」などの取材によれば、この会社は自民党東京都連、小渕優子議員の資金管理団体、自民党本部が出資して設立した集金代行会社「システム収納センター」などと取引があった。しかも社長は、自民党本部の事務方トップである元宿仁事務総長と親族関係という報道もある。

かくして、野党やマスコミは昨年10月から、「自民党が金を出してネトウヨに野党批判をさせていた」という批判を展開していた。ちなみに、「Choose Life Project」でも、小西議員と杉尾議員の記者会見を取り上げている。

●「Dappiは、民間人でなく、完全に国政を理解した組織的な行為」小西洋之・杉尾秀哉参院議員(20年12月10日)

こんな調子で、自民党のネット工作を批判しておきながら、自分たちも「公共のメディア」に1000万もカネを突っ込んでネガキャンを仕掛けていたとしたら――。一体どの口が言うのか、というほど華麗な特大ブーメランではないか。

また、「ブーメラン」で済む話ではないという厳しい意見もある。明らかに特定のイデオロギーに傾倒している「ネトウヨ的アカウント」を利用するより、「公正」「報道」をうたう「公共のメディア」を利用しているという意味では、より悪質で卑劣だという批判もあるのだ。

もちろん、抗議を受けた「Choose Life Project」の説明はこれからなので、津田氏らの調査が間違っているという可能性もゼロではない。抗議文によれば、1000万円は広告会社や制作会社を経由していた、というので運営側も立憲民主マネーだと気付かずに、受け取っていたということもある。

ただ、現時点の状況を見ている限りは残念ながら、「Dappi」と同じ穴のムジナのような気がしてしまう。なぜかというと、「Dappiゲート」の扱い方から、「後ろめたさ」を感じるからだ。

「Choose Life Project」は「Dappi」をほぼ取り上げなかった

「Dappi」をめぐる疑惑というのは昨年、野党やマスコミ、ネットメディアではそれなりに注目されていた。例えば、「朝日新聞デジタル」で「Dappi」を検索すると記事が15件出てくる。「Buzz Feed」では記事は10件ヒットした(22年1月5日現在)。

しかし、「Choose Life Project」でこのネタは先ほど紹介した昨年12月10日のコンテンツが1件しか出てこない。

コンテンツについているタグで検索をすると、検察庁法改正関連のコンテンツは11件、政府が説明責任を果たしていないというコンテンツは13件、辺野古など基地問題も12件とそれなりにある。五輪の問題や政府のコロナ対策などはもっと多く扱っている。その時々の注目される政治ネタをちゃんと押さえているのだ。

にもかかわらず、「Dappi」は1件だけ。これはかなり不自然だ。

今回、抗議文を出した津田氏や望月氏は、さまざまなメディアで「Dappiゲート」を追及していた。他にも「Choose Life Project」に出演していた政治家、有識者で「Dappi」を問題視していた人は多い。彼らに声をかければ、他のマスコミやメディアと同じような「Dappi」の疑惑を追及するコンテンツはできたはずだ。しかし、そうしなかった。ということは、そうせざるを得ない「オトナの事情」があったということではないだろうか。

もし津田氏らが指摘しているように、「Choose Life Project」に立憲民主党からの1000万円以上の番組制作費が渡っていたとしたら、このメディアで働く人々が積極的に「自民党ネット工作」をテーマにしたコンテンツをつくれるだろうか。

つくれるわけがない。偉そうなことを言って批判すればするほど、それは大きなブーメランになって自分たちのもとに返ってくる恐れがある。

つまり、「Choose Life Project」で「Dappi」関連コンテンツが1本しかないという事実が、津田氏らが指摘する、「立憲民主党から1000万円以上の番組制作費をもらった」という話に、妙に説得力を持たせてしまっているのだ。

立憲民主党が「ブーメラン」を繰り返す本質的な原因

さて、このような話を聞いていると次に皆さんが不思議に感じるのは、なぜ立憲民主党は「ブーメラン」を繰り返すのか、ということではないだろうか。

国会で自民党や政府を厳しく批判する。フリップやパネルを駆使して、「こんなひどい話があるなんて信じられません!説明してください!」と舌鋒鋭く追及をする。しかし、ほどなくして自分たちの身内にも同じような問題があることが発覚する、なんてことが民主党、民進党時代から幾度となく繰り返されている。

この「ブーメラン芸」が筆者は個人的に大好物である。かねてからウォッチしていたので、僭越ながら以下のようにその原因を分析させていただいてきた。

●民進党に特大ブーメラン再び!加計学園を応援した過去(2017年5月25日)

●「ブーメランの女王」辻元清美氏の戦略はどこが間違っているのか(2017年3月30日)

分析して見えてきたのは、「他人を批判してばかりいるから自滅する」ということだけでは説明できない、立憲民主党が抱える本質的な問題だ。

それは、自民党所属の議員とイデオロギーがちょっと異なるだけで、本質的なところでは「同じ穴のムジナ」ということである。

自民も立憲も国会議員は、政党からの金銭的・人的サポートがないと立候補できないし、地方議員と支持団体の世話にならないと当選できない。つまり、基本的に同じシステムでつくられる政治家なので、「政治とカネ」の問題も共通するし、「既得権益」に弱いところも同じなのだ。

「国家観や安全保障に関する考えが天と地ほど違うだろ!」というが、そこまで極端なのは一部で、多くはプロレスのように支持者のため「政府批判」というヒール役を演じている人も多い。かつて民主党のホープと言われた、細野豪志議員がちゃっかり自民党二階派にフィットしているように、立憲民主党の中には、自民党内リベラル、宏池会に入っていてもおかしくない議員が山ほどいる。

嘘だと思うなら、「枝野ビジョン 支え合う日本」(文春新書)と「岸田ビジョン 分断から協調へ」(講談社+α新書)を読み比べてみればいい。表現が異なるだけで、言っている内容はそれほど大きな違いはない。

自民党支持者からは「ふざけるな、このサヨク!」と罵られ、立憲民主党支持者からは「テキトーなことを言うな、このネトウヨめ!」とお叱りを受けるだろうが、自民と立憲民主の議員が本質的に「同じ穴のムジナ」だという証拠は他にもある。

それは、文書通信交通滞在費(文通費)だ。

「政治とカネ」の問題は立憲民主党にも不都合?

ちょっと前に話題になったので覚えている方も多いだろうが、これは議員歳費(給料)とは別に毎月100万円、年間1200万円手渡される非課税の「第二給料」と言われている。

なぜかというと、この1200万円をどう使ったのか国会議員は国民に知らせなくていいからだ。極端な話、銀座で飲み歩いてもいいし、子どもの留学費用にあててもわからない。

つまり、子育て世帯への「20万円給付」であれほど大騒ぎをしていたが、なんのことはない、国会議員には平時から毎年1200万円のバラマキ給付金があるのだ。

旧ソ連などならいざ知らず、先進国でこんな前近代的な議員特権を放置しているケースは珍しい。当然、十数年前から1200万円もらったらその使い道をしっかりと公表すべきだという声が上がり、日本維新の会や国民民主党など一部の野党が徐々に使途公開へと踏み切っている。

しかし、全国会議員ではなかなか実現しない。自民党が反対しているということもあるが、いつもことごとく自民と逆をやる立憲民主党も公開に踏み切らないからだ。

普通に考えれば、自民や公明の「政治とカネ」の問題がこれだけ出ている中で、立憲民主党が日本維新の会のように使途公開すれば、力いっぱい自民批判ができる。しかし、西村智奈美幹事長は12月28日の記者会見で「全議員が同じルールの下で公開することによって初めて意味を持ってくる」と述べるなど、思いっきり腰が引けている。

なぜか。自民党が、議員に配られる1200万円の内訳を白日の元にさらされると、いろいろと都合の悪いのと同じように、立憲民主党にも都合の悪いことがあるからとしか思えない。

少し前、自民の国会議員が選挙時に、「県議会のドン」と呼ばれる県議から裏金を要求されたと告発したことがあったように、日本の政治は、いまだに「現金」で票固めをしているような人々もいる世界だ。文通費もその原資となっているという指摘もある。

いずれにせよ、いつも互いに批判し合っている自民党と立憲民主党だが、議員定数の削減や文通費など「自分たちの特権を守る」という話になると、まるで同じ党なのかと錯覚するほど意見が合っている。本質的なところで守りたいもの、変えたくないことは一緒なのだ。

この「自民と立憲民主は同じ穴のムジナ」という問題が解消されない限り、立憲民主党には「ブーメラン」が刺さり続けるのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

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