あらゆるメディアのなかで、送り手と受け手の関係が最も理想的にみえるメディアってなんでしょうか。私は「スポーツ新聞」だと思います。
なぜって、読者は最初から“偏った情報”を承知のうえで買うからだ。むしろ期待している。そして次の点も大事ですが、情報の発信元が明らかにされているからこそ“偏り”に期待しているのだ。
立憲民主党がネットメディアに資金提供
野球報道でいうなら「スポーツ報知」は巨人、「中日スポーツ」は中日、「サンケイスポーツ」はヤクルト、などがある。球団と同じ系列だから機関紙的な役割も果たしている。なかには「デイリースポーツ」のように阪神と直接関係がなくても阪神情報が売りの新聞もある。それぞれ紙面が偏っているからファンは好みの新聞を読む。つまり、この情報のバックには誰がいるのかという「情報」は受け手にとってめちゃくちゃ大事なことなのだ。 © 文春オンライン ©iStock.com
ネットメディア「Choose Life Project」(CLP)は「広告に依らない、市民スポンサー型のメディアを目指します」と標榜してきた。寄付によって自由で公正な社会を共に作っていくための発信ができるとも言っていた。しかし、立憲民主党から「番組制作費」として約1500万円の資金提供を受け、その事実を明らかにしていなかった。これほど受け手を馬鹿にした話はない。
たとえば「自由で公正なスポーツ論評メディアです」と言っておきながら、阪神からカネを受けとって運営していたら? それを隠して巨人批判をしていたら? 受け手からすればなんだそれである。阪神ファンだってバツが悪いだろう(※この部分は球団名を自由に入れて考えてみて下さい)。
CLPは「公正さ」を偽装した
それが今回はよりによって政党だった。CLPは資金提供を明らかにしていなかった。地上波がじっくりやらないテーマだからネットメディアに期待しようという需要への裏切り行為と言われても仕方がない。
CLPは「あそこは立憲がカネを出してるけど、言説は公正で見どころがある」と言われればそれでよかったのだ。「しんぶん赤旗」は共産党の機関紙だが、桜を見る会や日本学術会議などのスクープは「事実」や「調査力」がすごかったから話題になったのだろう。中立じゃなくても事実に対して公正であって良いものならどのみち評判になる。CLPはこの点を理解せずに公正さを偽装していたことに驚いた。
一方で、立憲民主党の危機感のなさも酷かった。
西村智奈美幹事長は12日の定例記者会見で「資金提供を公表せず、疑念を与える結果となった」と語った。「疑念」ではなく、その「事実」に驚き呆れられているのだろうに。
説明責任が果たされないまま幕引きか
泉健太代表は7日の記者会見で「知らなかった。少なくとも現執行部では行っていない」「旧立憲は解散し、新たな政党としてできあがっている」と述べた。では当時の執行部で資金提供を認めた福山哲郎前幹事長にさらなる説明を求め、引き続き調査や検証をしていくかといえば幕引き感満載なのである。
立教大の砂川浩慶教授(メディア論)は「政党資金には国民の税金が投入されており、立憲には説明責任があります」と強調している (毎日新聞WEB1月9日) 。立憲は説明責任という言葉をよく使っていなかったっけ?
ほかにも西村幹事長は「メディアと政党、政治団体の関係性がどういったものが適切かは、もう少し議論する必要がある」などと述べた(朝日新聞デジタル1月13日)。まるで他人事である。
メディアとの適切な距離感と言うなら、受け手がその件にどれほど敏感になっているか知ったほうがいい。たとえば政治とメディアの距離感で言うと4年前にこんなことがあった。安倍晋三政権が放送法4条の撤廃に着手していたことが明らかになったことがあった。放送法4条は、政治的公平などを放送局に義務付けている。
メディアをけん制していた安倍政権
それまでむしろ安倍政権は放送法を盾にしてテレビ局をけん制していた。 西日本新聞の社説 から引用しよう(2018年4月7日)。
《安倍政権は4条を放送局への圧力カードに使ってきた。2016年には当時の高市早苗総務相が4条に基づき電波停止を命じる可能性に言及した。》
しかし一転、今度は4条を撤廃しようとした。それはなぜか。
《きっかけは森友学園問題のテレビ報道などに対する政権側の不満やいら立ちとされる。それが「政権の意向を代弁する放送局の参入を促したい」との思惑につながり、「4条が邪魔」という発想に結び付いたとすればご都合主義というしかない。》
この動きは潰れたが、権力が地上波テレビでさえ自分たちの思惑通りにしようという動きを見せたのだ。視聴者側としたら「政治とメディア」に敏感にならざるを得ない一件だった。
「違法ではない」「知らなかった」は通用しない
それなのに今回の立憲民主党は、“ネットメディアを規制する法律はないから資金提供に違法性はないけど、批判がうるさいからコメントしとくね”という態度にみえた。権力を監視する側だからこそネットメディアでさえもオープンに公正に振舞うことが信頼を生むのに、「違法ではない」「知らなかった」というのは自民党の狡猾さと変わらない。狡猾でないなら政治とメディアの距離問題にピンときていないのだろう(こっちのほうが深刻だ)。
そんななか「週刊文春」(1月20日号)は『立憲が密かに1500万円を…CLPステマ問題「影のドン」』と伝えている。
問題の本質は当時の枝野代表&福山幹事長を支えた「影のドン」(野党担当記者)として、前事務局長の秋元雅人氏の名前が挙げられている。ある立憲職員は「CLP問題の根っこは秋元氏による党の私物化」と述べ、安保法制反対のデモを主導した学生団体SEALDsの元メンバーらが設立したブルージャパン社には立憲から2020年だけで約3億4000万円が支払われており、「CLPへの資金提供にも秋元氏やブルー社関係者の関与があったと見られる」と証言している。
「Dappi」問題の追及はどうなる?
ここまで報道されたら泉代表はあらためて調査と説明が必要なのではないだろうか。
しかし『立民泉代表「説明を終了している」CLP問題で第三者委員会設置など否定』 (日刊スポーツWEB1月14日) という。
本当にこのままでいいの?
あと、今回の件でブーメラン扱いされるのが嫌で、例の「Dappi」への追及が鈍るというオチはないですよね。
(プチ鹿島)