[競わない生き方]のススメ

厳しい”競争”を余儀なくされるサラリーマンたち。その一方で、”競争”から降りて、別のライフスタイルを志向する「ダウンシフター」と呼ばれる人々が急増中!
【ダウンシフターとは?】
『浪費するアメリカ人』の中で、著者の米国人経済学者ジュリエット・B・ショアが命名した。「過度な消費主義から抜け出し、もっと余暇を持ち、スケジュールのバランスをとり、もっとゆっくりとしたペースで生活し、子どもともっと多くの時間を過ごし、もっと意義のある仕事をし、彼らのもっとも深い価値観にまさに合った日々を過ごすことを選ぶ」人々のこと。
幸せの原点は「比べない」「足るを知る」ということ
高坂 勝さん(40歳)
【経歴】百貨店営業 ⇒ 居酒屋経営
【年収】600万円 ⇒ 350万円
「儲けすぎなくていい」「働きすぎなくていい」を実践しながら、開業約6年間、ひと月も赤字がない。そんな不思議なオーガニック居酒屋が東京・池袋にある。駅からは徒歩で10分以上かかり、一見客はまず入らない場所だ。
「お客さんがあまり来ない場所にあえて店を出したかったんです」
と、店主の高坂さんは話す。
「” ヒマな店”を作りたかったんです。たまに満員になることもありますが、そうするとお客さんと話す余裕がなくなって、自分が楽しくない。自宅からは100m 足らずで、通勤ストレスはゼロ。広さ約7坪の店は全14席で、営業は18時から。23時半がラストオーダーです。朝から夕方までは好きなことをしてのんびり過ごしています。一昨年に結婚をし、家族との時間を大切にしたいと思って、去年から週休を1日から2日に増やしました。幸い、売り上げはあまり変わっていませんね。原価計算するヒマがあったら、昼寝や読書を優先していて、一日8時間はたっぷり寝ています」
 そんなのんびり経営をしながらも、月に5万~15万円は貯金できているという。
かつては大手百貨店に勤め、毎日12時間労働で、勤務後に週5日は同僚と飲みにいっていた。給料の3分の1は遊興費に使い、仕事の憂さを晴らしていた。
◆成長・拡大志向のない “稼がない自由”を謳歌
 バブル崩壊後、94年入社の「就職氷河期入社」1期生。自分なりのやりがいを感じながら約7年間勤務した会社を、彼が退職しようと考えたのは、職場の変質だった。
「不景気が長びいて業績が低迷すると、社内での競争を煽られ、会議と提出書類が増えるようになりました。そして、上層部に従順なだけの上司が来て、業績不振を部下のせいにするようになっていったんです。そして、『効率化』の名のもとに、独自の個性的なやり方は認められなくなりました
 大卒同期120人中、3番目の出世頭だった高坂さんは99年に退職。すぐに東北地方のキャンプ場を巡る旅に出かけた。
「初日から無謀だったなと後悔しましたよ。日が暮れる前にテントは張れず、枯れ木も集められなかった。火もおこせず、ご飯も炊けない。寝袋にくるまって寝るしかありませんでした。空腹と予想以上の寒さで、やっぱりオレは自分一人では何もできないのかって。惨めな気分でしたね」
 お金がないと、人は幸せになれないのか――当時の高坂さんにとって一番切実な疑問。過剰消費の最前線で働いていたからこそ、正反対の環境に身をおいて、その答えを見つけようという挑戦だった。
その後料理修業をへて、04年に現在の店を開業した。年収は600万円から350万円に激減したが、日商1万5000円あれば店を維持できるという。
「客単価3000円として、1日5人が来てくれれば成り立ちます。手元に残るお金は、サラリーマン時代と変わりません。今のライフスタイルに必要な収入を得るための売り上げ目標を計算し、その目標に届かなければ売り上げ増を考え、超えたら売り上げ減の対策を考える。成長・拡大志向のない”稼がない自由”というのは非常に気持ちがいいものです」
最近では、無農薬の米や大豆を作り、それを味噌や納豆に加工するなど、自分の手でできることを増やし続けている。
「『お金をかける』のではなく、『手間暇をかける』。潤沢な時間さえあれば、お金もモノもそんなに必要なくなる。知恵や技術も身につきます。幸せの原点は、『他人と比べない』ことと『足るを知る』ことだと思います」

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