松山市持田町2丁目の松山東高校でこのほど行われた通信制の卒業式。万感胸に迫る表情で卒業証書を受け取る川口暉美さん(84)=四国中央市金生町=の姿があった。後期卒業生105人の最年長だ。学友らとの別れに寂しさをにじませながらも「人生に定年はない」と笑顔で次の一歩を踏み出した。
川口さんは10歳で終戦を迎え、中学校を卒業すると地元の信用金庫に就職。結婚し3人の子宝にも恵まれ、幸せな毎日を送っていたが、高校へ行かなかったことへの悔いがおりのように心に積もっていた。「気付けばおばあさんになっていて、もう諦めかけててね」
背中を押してくれたのが孫娘の存在だった。2015年、県外の大学へ進学する孫と「一緒に卒業しようね」と約束して入学。その約束を果たした。
在学中、週2回設けられているスクーリング(授業)へ必要に応じて出席。登校日を待ちわびてカレンダーに印を付け、電車などで片道約2時間かけて通った。「見るもの聞くもの全てが新鮮でねえ」。担任の宮内達郎教諭(55)は「みんなに明るく話し掛け、非常に真面目で熱心な生徒だった」と話す。
受講科目の課題は余裕を持って提出し、分からないことがあればとことん尋ねた。苦手科目で課題の再提出を求められることもあったが、繰り返し挑戦して単位を修得。書道サークルでも意欲的に活動し、書道展で入賞するなどして県高校文化連盟文化功労賞を受賞した。
世代を超えた友人もたくさんできた。一緒にお弁当を食べたり、帰りに駅まで送ってもらったり。「学校に行きたくないと思ったことは一度もない」と胸を張る。帰りによくお茶をしたという同級生(42)は「私の方が元気をもらっていた。JK(女子高生)2人で話すのが楽しかった。とてもすてきなお友達」と語る。
孫娘も卒業し、4月から高校教師としてスタートを切る。川口さんは「東高の先生のような、優しく思いやりのある先生になってもらいたい」と願う。
今後やりたいことは、不登校の子や中退した子などに自分の体験を語ることだ。「少しでも誰かを勇気づけたい。満点じゃなくてもいい。なんぼになっても、時間がかかっても、やらないかんと思ったら何だってできるのよ」