米グーグルが音楽配信サービス「グーグル・ミュージック」をスタートした。個人でも自作の曲を販売できる仕組みを提供したのが特徴だ。
大手レコード会社に所属していない「インディーズ」のミュージシャンに光を当て、米アップルの「iTunes」など先行組と違った色を出す。
1曲購入されるごとに料金の30%がグーグルへ
「アーチスト・ハブ」も現時点では日本から利用できない
「アーチスト・ハブ」も現時点では日本から利用できない
好きなミュージシャンの楽曲ファイルをインターネットで購入し、携帯音楽プレーヤーやスマートフォンで聞くスタイルは、すっかり定着した。ミュージシャン側も自前のウェブサイトだけでなく、SNSに自分のページをつくってファンと交流したり、楽曲の販促につなげたりとネットをフル活用する。
2011年11月16日に本サービスが始まったグーグル・ミュージックの目玉のひとつ「アーチスト・ハブ」では、25ドル(約1875円)を支払えば誰でも自分専用のページを開いて自作の曲をグーグルの「アンドロイド・マーケット」を通じて販売できる。値段設定も自由だ。現在は米国のみでサービスが提供されており、日本からは利用できない。
知名度の低いミュージシャンにとっては、わずかな金額でネットでの楽曲販売が可能になる手軽さが魅力だ。例えば、アップルの「iTunes」で楽曲を売る場合、商品の流通コードや国際標準レコーディングコードの取得をはじめ、米国内の納税者識別番号を持っていることなど、細かい条件をクリアしなければならない。「iTunes」にファイルをアップするための技術的な知識も必要だ。そのため「アグリゲーター」と呼ばれる代行業者を利用するミュージシャンも少なくない。そのひとつ「モンスターfm」の場合、「iTunes」や米アマゾンなどの配信手数料が3150円で、1曲販売するごとに手数料として料金の25%を支払う。
これに対してアーチスト・ハブでは、初期費用の25ドルに加えて1曲購入されるごとに料金の30%がグーグルにわたる。動画サイト「ユーチューブ」やSNS「グーグルプラス」とも連動しており、露出の機会は増大する。販売チャネルも、パソコンだけでなく「アンドロイド」を搭載したスマートフォンもある。個人で音楽活動している場合でも、「アーチスト・ハブ」であれば敷居が低いと言えそうだ。
音楽SNS「マイスペース」は下火
ミュージシャンによるネット上でのPR活動というと、近年ではSNS「マイスペース」が挙げられる。有名バンドや歌手がこぞって自分のページを持ち、コンサート情報を掲載し、楽曲ファイルを公開して視聴できるようにした。「インディーズ」のミュージシャンも同様で、ブログを綴ったりプライベートの写真を載せたりとアピールに余念がない。
ただ、一時はブームを巻き起こしたマイスペースも、ここ数年は「フェイスブック」に追い抜かれて下火となっている。また楽曲販売サービスというよりも、どちらかと言えばプロモーションのために使われる意味合いが強い。グーグルという強力なブランドの下で自作の曲を販売でき、SNSも利用できる「アーチスト・ハブ」に、米国ではマイスペースから乗り換えるミュージシャンが増えることも考えられる。
利用者の反応は、おおむね好評だ。ツイッターを見ると、「情報通のインディーズミュージシャンにとっては好機」とつぶやく米アマチュアミュージシャンも見かける。
日本でのサービス開始時期は未定だが、スタートすれば「軍資金」に限りがあるアマチュアバンドや、個人で音楽活動に励む人には朗報だ。日本レコード協会によると、2011年1~6月のネットダウンロードによる有料音楽の売上実績は、シングル、アルバム合わせて56億5000万円と前年同期比20%増となった。2005年の同時期と比べると、10倍に伸びている。音楽業界としてもネット戦略は欠かせない時代にきたようだ。ただ、「アーチスト・ハブ」では誰もが同じ土俵で勝負できるだけに、特色のないページをつくればすぐに埋もれてしまうだろう。ネットによる楽曲販売は決して新しいモデルではないだけに、ミュージシャン側でも工夫を凝らしてライバルとの差別化を実現しない限り、グーグルのブランド力に頼るだけでは成功は難しい。