「六星占術」で一斉を風靡した細木数子さんが11月8日に亡くなっていたことがわかった。10日に養女のかおりさんがインスタグラムを更新し、「母・細木数子が呼吸不全で8日に満83歳で永眠しました」と報告した。
【写真】細木数子さんと養女・細木かおりさんのツーショット写真
「細木数子の六星占術 あなたの運命」シリーズの発行部数は、2017年に累計1億冊を超えるなど大ベストセラーになった。テレビ出演でも「アンタ、地獄に堕ちるよ」の言葉で注目を集め、軒並み好視聴率を記録した。
一見、怖いものなしに見えた細木さんだが、実は、本人も「地獄を見ていた」という。いったい、細木数子さんが巻き込まれた地獄とはなんだったのか。週刊ポスト2005年5月13日号掲載のインタビューを元に再構成してお届けする。
17歳から水商売。男に騙されて…
──人生を振り返って、一番辛かった時期はいつ頃でしょうか。
「32歳(1970年)の時だね。男に騙されて、気づいたら10億を超える借金。詐欺師だったんだよ、そいつが。しょうがないよ、だってアタシも天狗になってたんだから」
──それが地獄?
「そう、生き地獄だね。それまでのアタシは天国だよ。17歳で水商売の世界に入ったけど、商才があったんだね、10代からオーナーママで、バーやクラブ、ディスコを何軒も仕切った。若くて美人で小股の切れ上がったいいオンナだったから、そりゃあ引く手あまただったわね。でも頭の中は『儲けたい』、『偉くなりたい』、そればっかり。これじゃあうまくいくわけないわね。しかも世間知らず、社会オンチときた。色と欲に溺れて、騙されるのも当然だよ」
〈8人兄弟の四女として生を受けた細木さんは、17歳から水商売の世界に入る。わずか3か月で破局した結婚生活などもあったが、業績は右肩上がり。人生そのものが右肩上がりであった。だがその絶頂期に騙され、当時で10億円超の借金を抱え込んだ。〉
──いったいどんな「地獄絵図」だったんでしょう。
「税務署がいちばん怖かったね。税金が払えないから、クラブのソファーから何から何まで、赤紙を貼られるんだ。容赦なし。差し押さえだよ。ホステスも客も、逃げ出すわね。それでもあがいてあがいて、知り合いや闇金融から随分借りた。自分はやれるとたか括ってたんだね」
──でもどうしようもない。
「そうなったとき、アタシには『逃げる』と『死ぬ』という選択肢しか残っていなかった。でも周囲に迷惑をかけてるから逃げるに逃げられない。迷惑かけっぱなしは納得できなかった。死ぬ勇気もない。しかたないから、青山の路地裏の四畳半のアパートを借りて、そこで生活したよ。カップラーメンをすすりながら」
──何をしていたんですか。
「することなんてないよ。ドアの前では『張り番』といってね、ヤクザが交代で見張り。店も取り上げられたから仕事もない。昔馴染みの上客がたまに小遣いをくれてね。それで何とか食いつないでた。ひがな一日やることがないから、占いの勉強をしてたよ」
細木さんが「六星占術」の研究を始めたのはこの頃だ。それまで占いなど信じてはいなかったが、「地獄の底」で、「自分を知る必要がある」と占いの研究書や中国の古典を紐解き始めた。
地獄に堕ちるのは人生順風満帆のとき
「ただね、借金取りや見張り番にはいつもお茶を出していたよ。他人に気遣えとは母親の教えだったし、『誠意』しかやるもんがなかったからね(笑い)。そしたらそのうち、借金取りにも情が移ったんだろう。アタシから取り上げた休業状態のクラブを遊ばせておいてもしかたがないと、そこのママを私にやらせてくれることになった。その頃には、貧乏生活はもう2年半を過ぎていたね」
──それで10億の借金が返済できた、と?
「そんな簡単にはいかないわよ。(頭を指して)ここよ、ここ。自分の連れてきた客の売り上げを、借金取りの目を盗んでプールしてたんだ。中には300万とか500万とか“お小遣い”をくれるお客さんもいたしね。店も流行った。借金取りが客を引っぱってきてくれるし、常連客も戻って来る。評判が評判を呼んで、毎日が満員電車状態だった」
──そのお金はどう使ったんですか?
「新しい商売の運転資金にしたの。その金で赤坂の地下駐車場100坪を借りて、そこにディスコをオープンさせたのよ。赤絨毯を敷き詰めた最先端のディスコ。これが流行った。1日に何百人も来てね、売り上げの札束なんて毎日、ゴミを入れる大きなポリタンク3つに、足でギュウギュウ押し込んでたね。おかげで借金は3年で返済し終えたよ」
細木さんは借金返済どころか、新たに財をなす。その間も独学で勉強を続け、44歳で初著『六星占術による運命の読み方』を上梓する。「人生のカリスマ」の誕生である。
「いま、『借金苦で困ってる』って相談に来た人には、『プライドを捨てて何でもやれ』、『マグロ船に乗れといわれたなら乗って借金を返してこい!』っていってるのよ。何が何でも借金を返せってね。それが周囲への恩返しでしょ。
自分も借金したからわかるけど、借金は額じゃない。親兄弟も友人知人も、『自分のことを誰も相手にしない』状況にまいってしまうの。これが生き地獄。でも生き地獄も見方を変えれば、人生のいい修行と経験だよ。地獄にいるからこそ、素直に自分を反省できる。わかる?」
──ではなぜ、簡単に地獄に堕ちてしまうのでしょうか。
「地獄に堕ちるときは、人生順風満帆のときが多いの。アタシもそうだった。調子がいいから、自分の器の大きさが見えなくなって、うぬぼれてしまう。ここが頂点だと勘違いするんだね。周囲への感謝も、謙虚さも、何もかも忘れてしまう。あとは、色と欲に溺れるだけ。これが道理。堕ちるのはね、簡単なんだよ」
占いに振り回されているようじゃダメ
── 一般の人はどうしたら地獄を避けられるのですか。
「まずは器の大きさを知ることだよ。『己を知る』ということ。たとえば、マラソンが好きだとするよ。走り続けていれば、オリンピックに出られるかい? 違うだろ? もしそれに気づかずに人生をマラソンに捧げたとしたら、不幸な人生だよ。器の大きさを錯覚するから、苦しくなる。
人には、持って生まれた器、パワーがあるんだよ。これを見誤るからおかしくなる。スターになれない奴は、いくらスターを目指したってなれやしないの」
──では「己を知る」にはどうすればいいのでしょう。
「ここで、六星が登場するんだよ。これを入り口にして、自分の長所、短所、運気の流れを知ればいい。それが『己を知る』第一歩。
ただし、六星は『その場しのぎのお助け』じゃないよ。しかも絶対じゃない。『自分には優柔不断な面があるから、迅速に決断しよう』とか、『大殺界という冬の時代だから、春に備えて耐え忍ぼう』と、自分の考える道具に使うのが本来の姿だ。占いに振り回されているようじゃ、本当の自分なんていつまで経ってもわかりゃしないよ」
──己や立場をわきまえ、六星を有意義に使えば、自ずと人生が開けてくる、と。
「40歳以上の男は特に、『家』(地域、近隣の住民)、『仕事』、『家族』の3つの柱を大切にすることだよ。これが、あなたの『いま』。会社や周囲に不平不満ばかりだと、この『いま』が見えなくなるんだね。この3つのためにションベンに血をにじませながら働いていたはずなのに、そのことを忘れちまうから地獄に堕ちるんだ」
──なぜ不平不満が増えてしまうのでしょう?
「『使われ上手』じゃないからだね。『偉くなろう』なんていう下手な野心や、『自分はもっと評価されていいはずだ』という邪魔なプライドが、おかしくするんだよ。一度、プライドを捨てて使われてみな。周囲の見る目もかわって、自然と引き上げられるよ。3つの柱を守ろうと思ったら、プライドなんて邪魔になるよ。
リストラ後や定年退職後の再就職なら、それ以上にプライドを捨てることだね。一兵卒になりきるしかないよ」
※週刊ポスト2005年5月13日号掲載のインタビューを元に再構成