経済的には豊かなのにデータ上は「不幸」な国 日本が目指すべき幸せとは

国民の幸福度を測る総合指標として、世界的に広く用いられている「人生に対する満足度尺度(Satisfaction With Life Scale)」がある。

ここで日本、フランス、韓国は、所得に比して主観的幸福度が低いという結果が出ている。一方、所得に比して主観的幸福度が高いという結果が出ているのは、メキシコ、ベネズエラ、ブラジルだ。

この理由は何か。日本が幸せになるための道筋はどこにあるか。「ポジティブ心理学」の大家、ペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授が、4月末日東京で行われた「WELL BEING 3.0 カンファレンス」で語った。

みなさん、こんにちは。マーティン・セリグマンです。

はじめに、私が研究をしている「ポジティブ心理学」とは何かを簡単に説明できればと思います。

「ポジティブ心理学」とは、各個人が置かれている社会で起きているポジティブな事象に着目することで、幸福やウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること。心身ともに健康で健やかな生き方)を獲得することを目的としています。

もともと人のネガティブな感情を抑える方法を考え、うつ病や異常心理学を研究していた私が1998年に創設した学問の一つです。

うつ病や異常心理学・病理の研究を通して、「ネガティブな感情を抑えても幸せになる訳ではない」ということに気付きました。「幸せになる」というより、「どう幸せでいられるか」を研究することが、今の私の役割です。

そこで私は、「幸せをどのようにして持続していくか」を研究してきました。本日皆さんにお話したいのは、どう日本が幸せでいられるかということです。

2013年の世界各国の収入と国民の主観的ウェルビーイングの関係についての調査からは、国が裕福になればなるほど、国民の幸福度が高くなるという傾向が見えます。 しかし、その傾向から外れる国もあります。メキシコ、ベネズエラ、ブラジルは、収入に比して主観的ウェルビーイングが高かく、一方で、日本、フランス、韓国は、収入に比して主観的ウェルビーイングが低かったのです。

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日本は図の右下に位置する。GDPランキングが世界3位にも関わらず、収入に比して国民全体の幸福度が低い結果となった。

しかし、その例外となると国もありました。日本、フランス、韓国は、収入に比して主観的ウェルビーイングが低いという結果が出たのです。

幸福の定義はたくさんありますが、ここでは、私が研究を重ねてきたウェルビーイングを構成する「PERMA」について、お話します。

P=Pleasant Emotions (心地良い感情)

E= Engagement(エンゲージメント)

R= Relationships(人間関係)

M= Meaning& Purpose(人生の意味・意義と目的)

A=Accomplishment(達成感)

1つ目は「心地良い感情」。幸せ感、周囲に尊敬の気持ちを抱くなどのポジティブな感情のことをいいます。

2つ目は、「エンゲージメント」です。「フロー」や「ゾーンに入る」と表現されることもあります。何かに没頭したり、集中したりして時間の流れを忘れてしまうような体験のことを言います。

3つ目は、「人間関係」です。人間とは、仲間と群れる生き物であり、その仲間たちといかに支え合うことができるかがが幸福度を大きく左右します。

4つ目は、「人生の意味・意義と目的」です。 最近では「IKIGAI」と英語でもその意味が浸透してきた、生きる意味と目的です。

そして最後に「達成感」。人なら誰でも、ある目標を成し遂げた時、またそれに向かう過程でも幸せを感じるものです。

これらPERMAで構成される主観的ウェルビーイングの測定方法として、「人生に対する満足度尺度(Satisfaction With Life Scale、SWLS)」を用いることがあります。

ここで忘れてはいけないのは、同じ質問をしても、国ごとに異なる文化的背景から、その質問の受け取り方が大きく異なることがあるという事実です。

例えば、日本人はSWLSの質問のひとつ「ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い」という問いに1から10の度合いで答える際に、「10」を選ぶには、「自分自身の人生に何の不満もなく、満足している」と感じていなければならないと捉える人が多い傾向があります。

アメリカ人に聞くと、幸せを感じるハードルがそこまで高くありません。「ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い」を表す「10」を選ぶ人も全体の割合から見ても多くいます。

このように質問の捉え方によって、答えの基準にずれが生じる可能性があります。では、国ごとに一つの結果を比較することにどんな意味があるのでしょうか?

そこで私は、「DELTA PERMA SIGMA」という新しい基準を提案したいと思います。PERMAの前後にあるのはどちらもギリシャ語です。DELTAは「測定方法」を表し、SIGMAは「変化の量」を表します。

日本人は、幸せを感じる基準として何を重視するのかを決めるべきなのです。そしてそれは、「変化の量(SIGMA)」を測るために定量化できるデータでなければなりません。日本人独自の、幸せを感じる基準を設けるべきだと思うのです。

GDPなどの数値は確かにわかりやすい基準ではありますが、冒頭で述べたように経済状況だけでは人の幸せを測ることはできません。PERMAを構成する5つの要素と、定量化できる日本ならでは基準から、日本人がどう幸せでいられるかを考えるべきなのです。

世界標準の測定結果だけを見ると、残念ながら日本は幸せな国ではありません。しかし日本には、他の国にはない日本独自の持続的幸せを追求できる方法があるのではないでしょうか。

日本を幸せな国にするために、あなたはどんな基準を設けたいと思いますか?

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