◆70歳定年で人員削減が加速、40歳以降は受難世代になる!?
企業に70歳まで就業機会の確保を促す高年齢者雇用安定法の改正案「70歳定年法」が閣議決定した。この改正は、原則65歳となっている公的年金の支給開始年齢を、将来的には70歳へと引き上げるための政府の布石だと指摘する声も多い。
一方で、各企業の思惑は政府とズレが生じている。昨年、トヨタの豊田章男社長が「終身雇用制度を守っていくのは難しい局面」と発言。定年延長どころか、不要な人材は早期に処分したいというのが企業側の本音だ。
経済アナリストの中原圭介氏も「定年の引き上げはむしろ、年功序列の給与体系と終身雇用を崩壊させる」と指摘する。
「すでに40代後半からの中高年ホワイトカラーは、大量の余剰人員となって企業の重荷となっています。このため大企業でも、40代後半からを対象に早期退職の募集や、給与を引き下げる『役職定年』を早める動きが相次いでいます。中小企業がさらに深刻なことは言うまでもありません」
巷では深刻な人手不足が叫ばれてはいるが、これは飲食や介護など限られた業種の話だ。すでにメガバンク3行のほか、2019年にも損保ジャパン日本興亜や富士通などが大規模な人材削減案を発表しており、今後も解雇規制の緩和など、リストラの動きが加速すると考えられる。
「企業が今必要としている高スキル人材は、外資との獲得競争が激しく高給を提示しないと採用できなくなっている。企業は中高年を切り離すことで、優秀な若手を採る原資にしようとしているのです」
◆50代の貯蓄額、お寒い実態
SPA!が年収800万円以下の50代会社員400人を対象に実施したアンケートでも、約7割が「老後資金に不安を感じている」と回答。世帯貯蓄額も、「200万円未満」という回答が最多で、「わからない」という回答もほぼ同率だ。
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●50代男性会社員(年収800万円以下)400人を対象にアンケート
集計/’19年12月27日~’20年1月4日
▼現在の貯蓄額はいくらですか?
200万円未満 21.5%
200万以上~400万円未満 7.8%
400万以上~600万円未満 8%
600万以上~800万円未満 5.5%
800万以上~1000万円未満 8%
1000万以上~2000万円未満 19.5%
2000万円以上 8.7%
わからない 21.0%
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ちなみに、金融広報中央委員会の調査でも、50代の貯蓄額はお寒い現状だ。2人以上世帯でも、貯蓄ゼロが21%にも上る。
<世帯主50代世帯の金融資産>
・2人以上世帯…平均1194万円、中央値600万円
21%が金融資産なし
・単身世帯…平均926万円、中央値54万円
37.2%が金融資産なし
中央値=調査対象者のちょうど真ん中。金融資産なし世帯も含めた平均・中央値
金融資産=預貯金、投資信託、貯蓄型保険
(家計の金融行動に関する世論調査、2019年)
◆全体の8割以上がきちんと把握できていない
▼将来もらえる年金と退職金の額は把握していますか?
・きちんと把握している 14.4%
・なんとなく把握している 44.3%
・まったく把握していない 41.3%
▼老後資金の不安は何ですか?(ワースト3、複数回答可)
①老後資金の不足 67.3%
②体力低下・大病など健康面 56.3%
③両親・親族の介護 33.3%
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年金や退職金の額も、なんと8割以上が把握していない。昨年、「老後資金2000万円不足問題」が波紋を広げたが、50代になってもほとんど準備ができていない層が大半だという現状が浮き彫りになった。
◆給与の上がらない「安いニッポン」
かつてのように年齢とともに給与が上昇し、十分な退職金が支給されるなら問題ないが、現実の日本人の賃金は真逆の状況だ。OECD(経済協力開発機構)加盟国の実質賃金の推移を見ると、時間あたりで見た日本人の賃金は過去21年間で8%強も減少しており、先進国中で唯一マイナスとなっている。経済評論家の加谷珪一氏は、その理由をこう分析する。
「日本経済そのものが成長していない。国民一人が生み出す付加価値を示す一人あたりGDPは、過去20年ほぼ横ばいであるのに対し、他の先進国はほぼ2倍になっている。海外の経済成長に合わせて輸入品の価格も上昇しているので、価値を生めない日本は当然、相対的に貧しくなります」
自らの価値を上げられず、困窮していく「安いニッポン」。それは成長していく若手やエリートを横目に、何の対策も施さず、ただおびえて貧しくなっていく中年サラリーマンの姿そのものだ。
【中原圭介氏】
経済アナリスト・経営アドバイザー。大手企業への助言を行う傍ら、執筆・セミナーで経営・経済教育にも力を入れる。近著に『定年消滅時代をどう生きるか』
【加谷珪一氏】
経済評論家。日経BP社、投資ファンド運用会社を経て独立。メディア連載、番組コメンテーターほか、億単位を運用する投資家の側面も。近著に『日本はもはや「後進国」』
<取材・文/週刊SPA!編集部、図版/ミューズグラフィック>