統一教会の抗議でテレビは萎縮したのか?──安倍元首相銃撃から2か月、テレビ報道量の推移

抗議を繰り返す旧統一教会

 安倍元首相の殺害事件から2か月、世界平和統一家庭連合こと旧統一教会と政治家との関係が段階的に明らかとなってきた。教団系新聞の取材を受けただけのケースもあれば、萩生田光一自民党政調会長のように長年にわたって深い関係を築いていたケースも発覚した。

 こうしたことを明らかにしてきたのは、ジャーナリストの鈴木エイト氏や報道機関だ。現在も旧統一教会についての報道は続いており、国民の関心も依然として強い。安倍元首相の国葬儀が終わり、岸田首相が幕引きをしても、来年以降に容疑者の裁判が始まれば報道はかならず再燃するだろう。安倍氏が首相在任時に得意としたような“忘却戦略”は、もはや通用しない。

 一方、連日の報道が続く旧統一教会は必死だ。日本を最大の集金地としている教団にとって、現在は存亡の危機と言える状況なのだろう。そのため、報道機関に対して抗議を繰り返している。時系列では以下となる。

  • 7月12日:記者会見・田中富広会長
  • 8月10日:記者会見・田中富広会長
  • 8月21日:プレスリリース「異常な過熱報道に対する注意喚起」
  • 8月25日:プレスリリース「異常な過熱報道に対する注意喚起(2)」

 なかでも25日の「注意喚起(2)」では、放送直前の日本テレビ『24時間テレビ』に対して、教団がテレビ金沢で7年にわたってボランティアスタッフとして関わってきていると明かした。「これ以上報道を続けると、いろいろバラすぞ」という脅しにも見える振る舞いだ。

『スッキリ』の積極性

 では、こうした旧統一教会の抗議は報道機関に影響を与えたのだろうか。旧統一教会についてのテレビの報道時間を調査した(※)。重点的に見ていくのは、旧統一教会の抗議以降である先週・8月29日から9月2日までの番組だ。この間、旧統一教会関連のニュースには具体的に以下のものがあった。

  • 8月29日:消費者庁「霊感商法」検討の初会合
  • 8月31日:岸田首相が旧統一教会についての関係を謝罪、関係断絶を表明
  • 9月1日:韓国テレビ局・MBCに旧統一教会が抗議デモ
  •  〃  :自民党・井上義行議員が旧統一教会の賛同会員を退会

 もっとも多く取り上げられたのは岸田首相の記者会見だったが、それ以外にはさほど大きな動きが見られない週でもあった。知られていなかった事実が概ね報道されつくされた、という印象もある。よって、その前の週(8月22~26日)よりも全体的に報道量が減る傾向にあった。

 まず午前の情報番組は、25日の2度目の抗議以降に番組によって差がついた。日本テレビ『スッキリ』は増加したものの、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』とフジテレビ『めざまし8』は減少している。

筆者作成。
筆者作成。

 『スッキリ』は、8月30日に山口広弁護士への取材を通して旧統一教会の霊感商法による被害についての問題を15分近く取り上げた。これは前日の消費者庁による霊感商法検討の初会合を受けてのものだ。

 従来『スッキリ』は、報道だけでなくエンタテインメントにも多くの時間を割く番組構成だ。後半にはそのためのコーナーもあるので、相対的に時事報道の割合は小さくなる。だが安倍元首相の銃撃事件以降、旧統一教会にはしっかりと時間を割いている印象だ。

抗議にひるまない『ミヤネ屋』

 午後の情報番組では、読売テレビ制作の『情報ライブ ミヤネ屋』が圧倒的な報道量を続けてきた。

筆者作成。
筆者作成。

 8月29日から9月2日にかけては、それまでの7週と比較するともっとも少ない水準となったが、この間も毎日旧統一教会についての報道を続けた。7月12日以降、32日間連続である。

 8月25日の旧統一教会の抗議は、おもに日本テレビ系列の『ミヤネ屋』を対象としているとの向きが有力だ。だが、連日報道を続けている『ミヤネ屋』にその影響があったとは感じられない。

 29日の放送では、テレビ金沢(日本テレビ系列)の『24時間テレビ』に旧統一教会が関与していたことに対し、MCの宮根誠司氏が「説明不足」と意見する一幕もあった。

 加えてこの日の放送では、読売テレビの姿勢として「現状教団とのかかわりについては把握していません。今後、新たな事実が明らかになれば、しっかりと速やかにお伝えしていきます」との声明を出した。読売テレビは明確に旧統一教会の抗議にひるまない姿勢を見せた。

 9月2日の放送では、岸田首相の“関係断絶宣言”を受けて教団側にも独自取材をし、「残念に感じている」との言葉を引き出している。非常に積極的に報道する姿勢に変化は見られない。

TBS報道局の積極的な姿勢

 夜のニュース番組では、TBSの『news23』が旧統一教会の問題についての時間を割き続けている。TBSは『報道特集』(土曜17時30分)やBS-TBSの『報道1930』(平日19時30分)でも入念な報道を続けており、報道局が重大な問題として捉えていることが伝わってくる。

筆者作成。
筆者作成。

 NHKもより本格的に取り上げるようになった。公共放送という特殊性もあり、NHKの報道姿勢は民放よりも慎重で、かつストレートニュースに多くの時間を割く傾向にある。結果的に『ニュースウオッチ9』で割く時間は限られているが、より深掘りした内容を他番組でフォローする体制にもなっている。

 なかでも、8月29日の『クローズアップ現代』では、実質的に教団トップの梶栗正義氏へのインタビューを放送した。驚くような内容ではなかったが、これまで報じられてきたことを旧統一教会側に確認できた(証言を得た)のは大きな価値がある。その内容の長尺版も、テキストによってNHKのウェブサイトで公開されている(8月29日「旧統一教会関連団体トップに問う 教会と政治、安倍元首相との関わり」)。

期待される調査報道

 テレビ報道のこうした推移を見ていると、濃淡はありながらも重大な問題として報じてきたことが確認できる。ここまで取り上げてきた9番組の報道時間を足して日別で見ると、以下のようになる。

 もっとも報道時間が長いのは、旧統一教会が2度目の記者会見をした8月10日だった。

筆者作成。
筆者作成。

 この2週間ほどは減る傾向にあるが、これは前述したとおり既存のネタが出尽くしつつあるからでもある。たしかに抗議の後に報道時間は減っているが、これが抗議の影響であるかどうかは、今後の推移を確認しなければ判断つかない。

 安倍元首相の殺害は、ジャーナリズムにとっては痛恨の事件でもあったはずだ。数年前まで史上最長の政権を続けていた首相とカルト宗教団体がズブズブの関係であり、それを見過ごしてきた(忘れていた)からだ。それを反省している報道関係者も少なくなく、今回の入念な報道はそれによるものでもあるだろう。

 そして、今後さらに期待されるのは時間をかけた調査報道による事実解明だ。旧統一教会は、まるでウイルスのように日本の政治の中枢に入り込み、増殖したように見える。そのプロセスがどのような過程であったのか、歴史的なより細かい調査が求められる。

 韓国のテレビ局・MBCは、8月30日の調査報道番組『PD手帳』で安倍元首相銃撃事件と旧統一教会の関係について網羅的な報道をした(9月1日のMBC前での旧統一教会の抗議はこの番組に対してだ)。

 その多くは日本ですでに報じられている内容だが、韓国の旧統一教会本部への潜入や、韓国の二世信者(母親が日本人)への取材もあり、非常に充実した取材だ。また、韓国のカルト宗教団体と極右の安倍元首相が深い関係だったことが、訝しがられているのも印象的だ(番組はすべてYouTubeで観られる)。https://www.youtube.com/embed/aUmtUXkfopo?rel=0&wmode=transparent

 もうひとつの方向として挙げられるのは、このようなカルト宗教団体と政治との関係は、果たして旧統一教会だけなのかということである。

 たとえば神道をはじめとする宗教団体を母体とする極右系の政治団体・日本会議と安倍元首相との深い関係は、森友学園問題の時期に多く指摘されてきた。旧統一教会とは異なるケースだが、あらためて丁寧に比較検討する必要があるだろう。

 日本では過去30年に、オウム真理教と旧統一教会のふたつの宗教団体関連の大きな事件が起きた。これは明らかに異常事態だ。メディアだけでなく、政治家を選んできた有権者も、この異常性を忘れずに噛みしめ続ける必要がある。

※この調査は、ワイヤーアクション社のテレビ番組放送データで「統一教会」の検索でヒットした項目をもとにしている。よって、旧統一教会のみを扱ったコーナーだけでなく、安倍元首相の殺害事件で旧統一教会に言及された枠も含まれる。そして、各番組のタイムテーブルから、「統一教会」と関係するコーナーが番組全体でどれほどの割合だったかを割り出していった(各番組時間にはCMも含む)。

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