絵をほめずに額縁をほめるな! 広告好きな人ほど陥りやすい「残念な差別化コピー」とは

広告が好きな人ほど要注意! コピーはカッコよくなくていいのだ
 最初なので「強化編」について簡単な紹介を。前半のテーマは<残念なコピーから脱出する方法>だ。良い手本でなく、ちょっと残念コピーを見ながら、よく陥りやすい、“あるあるミス”にフォーカスして、そうならないようコツを伝えていく(後半のテーマは「説得力アップ」の予定で、また改めて紹介します)。
 時々コピーライターではない方や新人コピーライター向けに研修を行うのだが、受講される方にコピーを書いてもらうと、毎回同じような間違いや勘違いをする。
 コピーの書き方があまり知られていないひと昔ならいざ知らず、本やネットで簡単にノウハウが手に入る今でもその傾向は変わらない。ということは、誰しも最初はやってしまいがちなミスなのだろうと思う。
 では、なぜそうなるのか。受講生からの質問や添削をもとにその理由を考えてみたところ、主に次のようなことがあるようだ。
コピーライティングの基本を知らない。(文章能力に頼っている)
基本はなんとなく知っているがよく理解していない、うまく実践できない。
コピーについて勘違いをしている。
 どう解決するか。コピーライティングは技術なので、基本を覚えて実践とフィードバックを重ねていく以外、上達する方法はない。だから、1.と2.に思い当たる方はあまり心配ない。
 3.に思い当たる方はまず、コピーは面白く、カッコよく、心にしみるものなければならないという思い込みを捨ててほしい。いわゆる名作コピーの影響と思うが、以前よりは少なくなったけれど、まだそんな風に思っている方もいるのだ。
 コピーがめざすゴールは問題の解決。<何を伝えるか>が重要で、<どう伝えるかは>はその次。注目を引くなどの理由からパンチのある表現は必要だが、ポエティックな表現は必要ではないし、たいがい役に立たない。 そういうコピーは宣伝会議賞の応募くらいしか使い道はない。身につけていただきたいのは眺めて楽しむ装飾刀ではなく、スパッと切れる刀のこしらえ方だ。
差別化コピー、喜ぶのはライバル会社だけ?
 今回のちょっと残念なコピーのテーマは「商品を殺しかねない差別化コピー」。セミナー受講者の方から、<自社の商品は市場の中で際立った差別化ができない。そういう場合はどういう訴求をすればいいのか?>という質問を受けることがある。
 商品にはライフサイクルがあって、<導入期><成長期><成熟期><衰退期>と4段階に分けられる。各段階によって表現のアプローチを変える必要があるが、正直な話、<衰退期>の末期では大幅ディスカウント訴求でも苦しい。
 先の質問もそうだが、一番悩むのが<成熟期>での訴求だ。今世の中にある商品のほとんどは成熟期ではないだろうか。つまり競争が激しく、どのブランドも機能面でも価格面でも似たり寄ったりで差別化しにくい。
 だから、セールスポイントが同じようなものになる。それでは違いが分からず、目立たないと思い込んでしまう。そこで少しでも違いを出そうと差別化を図ろうとする。あるいは差別化のもとになるUSP(ユニーク・セールス・プロポジション=独自の強み)を見出そうとする。
 うん、正しい戦い方だ。差別化をコピーで訴求しようという話になる。それも正しい。そして差別化ポイント探しをする。なかなか決定的なポイントが見つからない。ま、仕方がない。どのブランドもそんなものなのだ。だからもっとよく探して驚かせてやろうじゃないか! そうしてワナに飛び込んでいく……。
オグルヴィは「差別化しろ」なんて言ってない
 おやおや、そっちは危ない。ここでアドバイスを訊こう。広告、そしてコピーライティングのレジェンドであるディヴィッド・オグルヴィ(『ある広告人の告白』『「売る」広告』/海と月社)はどう言っている?
たいていのコピーライターは、扱っているブランドが他のいくつかとそっくりだという都合の悪い事実に直面すると、すべてのブランドに共通することを消費者に伝えても意味がないと思い、いくつかのささやかな違いを述べるだけにとどめてしまう。
 さらにはこうも言う。
広告主たちは、競争会社の製品より優れていることを消費者に納得させねばならないと考えてきた。(中略)自社の製品を、確かに良い品だと納得させれば、それで十分なのである。
 極めつけはこうだ。
自社製品が“確かに良い品だ”という信頼を消費者間に植えつけるのに最善を尽くすマーケッターに軍配が上がるだろう。
絵をほめないで額縁をほめてはいけない
 伝えるべきはあなたの商品がいかに優れているかということ。差別化は手段であって目的ではない。“その他とはココが違います、ココは他とは飛びぬけて優れています”ということを知覚してもらうためのアプローチにすぎない。
 成熟期の商品は競争が激しく差異が小さいので、よほどの人気ブランド以外は強い印象を与えて選択肢のひとつに入れてもらわなくてはいけない。まずは予選リーグの突破からだ。お客さんは多くの選択肢の中からいろいろと比較して選ぶのだが、その際にそれぞれの商品の「売り」を判断基準にする。
 だからこそ「売り」はお客さんにとって価値あるものでなくてはいけない。たとえユニークな違いであっても、その価値が小さなものであれば、それは決め手にはならない。差別化が功を奏するのは、価値が大きなものに限っての話だ。そこがわかっていないので、マイナーな差別化訴求をやってしまうのだ。
サバ缶について知りたいのは「開けやすさ」より「味」でしょ
 サバの水煮缶詰を例に見てみよう。小さな改良は重ねられてはいるが、成熟もいいところの商品だ。サバの産地、塩の種類、味付けの工夫などそれぞれ違いはあるものの、どのブランドも差がない。そこで違いを出そうとやっきになって、苦し紛れの言い訳のようなキャッチフレーズにしてしまう。たとえば……
大きめのプルタブだから、力いらずで開けられる。
脂乗ってます、健康成分DHAとEPAがたっぷり。
 確かにフタが簡単に開けられるのは、お年寄りへの訴求としては悪くないし、健康成分というヘルシーな訴求も購入の動機づけになる。しかし、その前に誰もが美味しいサバ缶を食べたいはずだ。絵をほめずに額縁をほめるような表現に興味は湧きにくい。
 最も強く訴求するべきはいかに美味しいかだ。脂が乗っているならば味覚や食感を刺激したり、レシピ(=使い方)で価値を伝えることもできる。
脂の乗ったトロっとした食感、そのままでも美味しい。
トロっとした食感、天日塩だけのサッパリした味わい。
こくウマっ! トマト缶と煮込めば、サバのトマト煮。
 たとえセールスポイントがライバルと差がなくても、ライバルが訴求していないのなら言ったほうが有利になる。小手先ではあるが、つまらない差別化よりは効果的だ。
 普段、私たちはうわの空だしすぐ忘れる。よほど関心があるもの以外については覚えていない。あなたの商品については知らないも同然だ。さんざん伝えつくして飽きたから、差別化してユニークさを伝えようというのは売る側の勝手な思い込みで危険だ。あなたの商品の価値を落としてしまうことだってある。
 奇策に走らず、良さはきちんとしつこく訴求すべきだ。差別化自体は有効な戦い方だが、それが価値あるものどうかを判断してほしい。コピーがいくらキャッチーな表現でも、伝える内容が使えなければ意味はない。コピーライティングにもマーケティングの考え方が必要なのである。
今回のまとめ
差別化は手段であって目的ではない。価値の小さなことでの差別化は逆効果。
大切なのはその商品の良さ、優れていることを効果的に伝えること。
ライバルと同じようなセールスポイントでも、ライバルが訴求していないなら使う。お客さんはそれがあなたの商品の強みと受け取る。

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