携帯電話のコミュニケーションに欠かせない“絵文字”だが、去る4月18日、au陣営とイー・アクセス(イー・モバイル)が、絵文字のデザインをNTTドコモに合わせる形でのリニューアルを発表、キャリア間での絵文字統一に向けた動きを進めようとしている。一体なぜ、いま絵文字再編の動きが起きているのだろうか?
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NTTドコモ風に変化した絵文字デザイン
今回発表された絵文字のリニューアルは、auとイー・モバイルが、NTTドコモの絵文字をベースとした絵文字デザインに変えることで、共通化を図るというものだ。すでにNTTドコモと絵文字デザインを統一化しているウィルコムも含め、ソフトバンクモバイルを除く全てのキャリアで、共通化されることとなる。
絵文字はキャリアによってデザインが異なる。そのため、同じ絵文字を送ったとしても、キャリアが違えば、そのニュアンスが相手に正確に伝わるとは限らない。例えばauで猫の顔を使っている絵文字を送ったとしても、NTTドコモの相手にはまったく異なる絵文字が表示されてしまい、意図した意味が相手に通じないということも少なからずある。
だが今回、絵文字デザインが共通化されたことで、そうした表現に関する問題が解消されることとなり、より円滑なコミュニケーションができるようになる。NTTドコモの絵文字デザインに合わせたのには、特に若年層に、シンプルなデザインの絵文字が好まれる傾向が強いことが影響しているようだ。
もっとも、auの絵文字などはNTTドコモよりも種類が多いため、NTTドコモにはない絵文字の扱いが気になるところだ。だがこれに関しても、NTTドコモの絵文字を開発した栗田穣崇氏の監修のもと、NTTドコモの他の絵文字デザインに近い形で、リニューアルが図られている。また、auは従来デザインの絵文字の一部をデコレーション絵文字素材として残すなど、旧来の絵文字を好んで利用するユーザーに対してもサポートを実施している。
ちなみに今回、ソフトバンクモバイルは絵文字デザイン統一化の取り組みに参加しているないが、それは同社は2008年、すでに他社とニュアンスを合わせる形で絵文字のデザインを変更していることが要因のようだ。
かつてはサービス競争の目玉だった“絵文字”
そもそも絵文字のデザインを統一化するに至った背景として、1つは先に説明した通り、キャリア間で絵文字のデザインが異なるがゆえ、相手に意図した通りの意味が通じず、特にキャリアEメールを用いてコミュニケーションを図る上では、弊害となっていることが挙げられる。
NTTドコモがiモードを導入して以降、キャリアが提供するメールサービスの利用が増えると共に急速な広まりを見せた絵文字。メールを文字で手軽に装飾できることが人気を呼び、その人気の高さゆえ、かつては絵文字が、携帯電話選びの差別化要因となっていたほどだ。
シンプルな絵文字で定番となったNTTドコモに対し、auやJ-フォン(現在のソフトバンクモバイル)は絵文字の数を増やし、カラーで動きのある絵文字を採用して表現力を向上させるなど、各社が独自の絵文字導入を競い合うという時代が長く続いた。
そのため、キャリア間で絵文字を統一しようという動きはなかなか起きず、ユーザーは絵文字付きのメールを他キャリアの携帯電話に送信すると文字化けを起こしてしまうなど、不便を強いられていた。
だが2006年に番号ポータビリティが導入されたことで、番号を変えずにキャリアを変更するユーザーが増えると予想されたことから、移動したユーザーの利便性を考慮し、異なるキャリアに絵文字を送信する際、他社の絵文字に自動変換するサービスを各社が導入。これによって異なるキャリア間での絵文字交換はしやすくなったが、デザインに大きな変更を加えるケースは少なく、表現の問題は未解決のままであった。
当時はフィーチャーフォンが全盛であり、パケット定額制サービスの普及も途上段階であったため、デコメールなどの装飾メールサービスも普及途上であった。そのため、絵文字がまだキャリア選びの差別化要因になっていたというのが、デザインの変更までには至らなかった要因として考えられるだろう。
統一化に影響を与えるコミュニケーションスタイルの変化
そうした障壁を乗り越え、絵文字デザインの統一化に至った背景にはもう1つ、大きな要因も働いているといえよう。
NNPの導入からおよそ5年半が過ぎた現在、パケット定額制サービスの利用が一般化したことで、大容量通信に対する抵抗感が薄くなり、さらにそれを扱いやすくする、スマートフォンの人気も急速に高まっている。これにより、より大容量通信ができることを活かしたコミュニケーションサービスが急増し、人気を博すようになったのだ。
それを象徴しているのが、「LINE」に代表されるグループチャット、ボイスチャット系サービスの人気だ。最近ではこうしたサービスにおいても、装飾メールに近い表現力を持つ“スタンプ”などの機能を取り入れ、高い表現力を持たせるケースが増えている。
さらにスマートフォンの広まりによってプラットフォームの主導権が変化し、そのプラットフォームをけん引するアップルやGoogleが、独自のEメールサービスを提供。プラットフォームを掌握している優位性を活かし、自身のプラットフォームに合わせた使い勝手の良い仕組みを整備するようになった。それゆえ、キャリアが提供するEメールサービスも、かつてのように代替えが利かない、絶対的な存在というわけではなくなってきているのだ。
表現力の高いコミュニケーションサービスの台頭、そしてキャリアが提供するEメールサービスのプレゼンス低下。大容量通信とスマートフォンの台頭によって起きたコミュニケーションスタイルの変化がもたらすキャリアの危機感が、絵文字のデザイン統一に影響を与えた部分も大きいと考えられる。
絵文字の世界的統一に向けた動きにも期待
さまざまな要因があるとはいえ、競争関係にあるキャリア同士での協力がなされ、絵文字のデザインの統一が進められたことには、大きな意味があったといえる。だが、絵文字の完全統一に至るには、今回の取り組みから外れたソフトバンクモバイルも含めたキャリア間の協力強化に加え、Unicodeへの対応も求められるところだ。
実は絵文字はすでに特殊な存在ではなく、国際標準として定められた立派な“文字”になっている。2010年10月に、現在のコンピューターなどで多く用いられている文字コード(文字の割り当て)である「Unicode Version 6.0」において絵文字が取り入れられているのだ。
事実iPhoneなどは、Unicodeを用いて絵文字の利用を可能にしているが、一方でソフトバンクモバイルのiPhone(iOS5.1)で絵文字を送信すると、相手によっては表示されないなどのトラブルも起きている。GoogleのGmailなど、独自で絵文字の仕組みを整えている事業者も含め、海外などの事業者とも絵文字デザイン、さらには絵文字を使ったコミュニケーションの仕組みを整える努力も、必要になってくるだろう。
絵文字が世界的な存在になったとはいえ、絵文字を用いてメールを装飾するようなコミュニケーションスタイルが、世界的に広がったわけではない。それだけに、国内で絵文字を統一化するだけにとどまらず、絵文字が日本発の文化として、世界中で広く利用されるようになるための取り組みにも、大いに期待したいところだ。