伊豆沼・内沼(宮城県栗原、登米両市)で絶滅危惧種ゼニタナゴの稚魚の群れと産卵活動が約20年ぶりに確認され、研究者らの注目を集めている。外来魚ブラックバスの影響で姿を消したとみられていたが、地域住民を巻き込んだ駆除活動が実った。絶滅危惧種の復活は全国的にも珍しいという。
確認したのは宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団(栗原市)。2020年5月の調査でゼニタナゴの稚魚の群れを観察した。同年9月には産卵場所となる貝の近くで、産卵期を迎えて変色した雄1匹、産卵管を伸ばした雌3匹を撮影。伊豆沼・内沼に定着したと判断した。
伊豆沼・内沼は1990年代前半までゼニタナゴが年に5、6トン漁獲される国内最大の生息地だったが、99年以降は姿がほぼ見られなくなった。急激に増えたブラックバスに捕食されたと考えられている。
財団などが2004年にブラックバスの駆除を本格化させた。独自の取り組みとしてトレーに小石を敷いた人工産卵床を繁殖期の5、6月に設置。産卵場所を守る習性を利用して、親魚と稚魚を一網打尽にした。
対象地域は伊豆沼・内沼に限定せず、ため池など周辺の約200カ所も加えた。年100人以上の地元住人らがボランティアとして駆除活動に参加。延べ3000人が協力した。
駆除数が一時、稚魚を含め年500万匹に上ったブラックバスは次第に減り、ここ数年は年数十匹となった。15年にゼニタナゴ2匹が確認されたものの、ため池から流入した可能性が高いとされて伊豆沼・内沼に定着しているとは判断されなかった。
研究者でつくる日本魚類学会(東京)が4月25日に発行した学術誌に、ゼニタナゴの復活を紹介した論文が掲載された。
論文著者の一人で財団の藤本泰文主任研究員(46)は「絶滅危惧種の復活は珍しく、全国の環境保全活動に希望を与える。多くの協力と長年の粘り強い活動の勝利だ」と強調。駆除活動に関わった水生生物保全協会(宮城県利府町)の斉藤憲治理事長(64)は「復活は無理だと思っていた。夢のようだ」と喜んでいる。
[ゼニタナゴ]日本固有種のコイ科の淡水魚。全長5~10センチ。浅い湖沼などに生息し、秋に二枚貝に産卵する。関東以北に広く分布していたが、現在は東北の約10カ所のため池などに限られる。環境省のレッドリストで絶命の危険度が最も高い絶滅危惧IA類に指定されている。IA類は他にイリオモテヤマネコなどが含まれる。