続々と縮小していく女児向けコンテンツ プリキュアとともに「女の子向け市場」を盛り上げてきたIPに何が起きているのか?

2022年は「女の子向けアニメーション」激動の年となりました。プリキュアとともにこの10年間「女児向けコンテンツ」を支えてきたIPが続々と縮小、路線変更しているのです。

 2022年10月9日、テレビアニメ「ワッチャプリマジ!」が最終回を迎え、「プリティーリズム」「プリパラ」「キラッとプリ☆チャン」など11年半続いていた「プリティーシリーズ」のアニメがいったん休止となりました(アーケード筐体は「ワッチャプリマジ!スタジオ」としてまだ続きます)。

 同様に「アイカツ!シリーズ」も、2021年に「アイカツプラネット!」でテレビ放送は休止、各地の「アイカツ!」オフィシャルショップも閉店となり、アーケードゲーム筐体「データカードダス アイカツプラネット!」は2022年10月20日稼働のユニットステージ3弾をもって終了することが発表となりました。

 また、2017年から5年間続いてきた女の子向け特撮「ガールズ×戦士」シリーズは、6月に「ビッ友×戦士キラメキパワーズ!」が終了し、男の子も対象とするダンスドラマ「リズスタ-Top of Artists!-」に路線変更しました。

 さらに「おねがいマイメロディ」「ジュエルペット」「リルリルフェアリル」と続いてきたサンリオのアニメシリーズも2022年3月「ミュークルドリーミーみっくす!」の終了とともに、いったん休止となりました。

 2022年は「女の子向けコンテンツ」の地殻変動が起きているのです。

●新型コロナの影響?

 この女の子向けの各IPの縮小、路線変更には2020年以降の新型コロナの影響も大きいと思われます。特に「アイカツ!」「プリティーシリーズ」は、基盤となっていたのが「アーケード筐体によるカード類の売り上げ」であったため、その影響は計り知れないものがあったと思われます。

 例えば、「アイカツ!」シリーズは、2013年~2015年の一大ブーム時にはプリキュアをも上回る100億円を超える売り上げがありました。その大ブームが落ち着いた2016年以降も30億~50億円程度の安定した売り上げだったものが、コロナ禍以降2020年からは20億円を下回る苦戦が続いています。

 同様に「ワッチャプリマジ」「ガールズ×戦士」を擁するタカラトミーの決算数字を見てみると、こちらは個別IPの数字は出ていませんが、ファッショントイ(リカちゃん、ガールズホビー、ガールズキャラクター)の数字で、コロナ禍以降落ち込んでいることが分かります。

 コロナ禍以降、「イベントの休止」や「アミューズメント施設に親子で足を運ぶ」という行為自体が縮小していき、次第に売り上げも落ちてしまったようです。

●少子化も加速している

 さらに少子化も加速しています。2021年の出生数は81万2000人と1899年の調査開始以来で過去最少を更新しました。15年前と比較して、28万1000人(25.7%)も出生数が減っています。

 仮に子ども1人あたり1年で1万円分の玩具、関連商品の購入をしているとして、15年前と比較しても28万人×1万円=28億円もの市場が1年ごとに縮小していくのです。その傾向はこの先も加速していくものと思われます。

 市場は少子化により縮小し続けており、それがコロナ禍で加速したことで女の子向けコンテンツは路線を変えざるを得ない状況になってきたものと思われます。

●「アイカツ!」は終わるわけでない

 ただ一つ勘違いしないでいただきたいのは、「アイカツ!」や「プリティーシリーズ」は決して「終わる」わけではないのです。

 例えば「アイカツ!」の場合、バンダイナムコの決算報告をみるとアイカツ「グループ全体」としての売り上げは確かに2014年のピーク時よりも大きく落ち込んでいますが、その詳細を見てみると、大きく落ち込んでいるのはトイホビー部門(「アイカツ!」の場合、主にカードの売り上げ)なのです。

 それ以外(「アイカツ!」の場合はサンライズ制作のアニメやランティスの音楽CD、ライブなどの売り上げ)は比較的安定して推移していることが分かります。

 要は、「アイカツ!」は「女の子にアミューズメント施設に来てもらい100円、200円を落としてもらう」というビジネスが、コロナ禍もあり苦戦続きとなり幕を閉じることとなっただけなのです。

 「アイカツ!」シリーズはこれまでもライブなどでの大きな実績もあり、この先もさらに安定した収入が見込まれる映画やグッズ、CD、ライブなどを主体としたビジネスへと転換し続いていくものと思われます。

 事実、「アイカツ!」シリーズは、2023年春に10周年記念映画「映画アイカツ!10th STORY~未来へのSTARWAY~」を公開予定。2023年2月には10周年記念ライブ「アイカツ!シリーズ10th ANNIVERSARY LIVE」の開催も控えているなど、この先も積極的な展開が見られます。

 「アーケード筐体を主軸に新規の子ども向けに幅広く展開するビジネス」から「これまでアイカツを好きでいてくれた、かつての子どもたち」に向け、IP資産を生かした展開が続いていくものと思われます。

 一方、タカラトミーの「プリティーシリーズ」も、アーケード筐体は「ワッチャプリマジ!スタジオ」として継続、月額サービスの導入など新しい試みも実施されます。またWebアニメおよびアプリゲーム「アイドルランドプリパラ」も展開を控えているなど、まだまだ終わるわけではありません。あくまで「いったん休止」となっただけなのです。12月にはライブ「プリパラ&キラッとプリ☆チャン& ワッチャプリマジ! Winter Live 2022」も予定されています。

 また、女の子向け特撮を現代によみがえらせたタカラトミーの「ガールズ×戦士」シリーズは、男の子も登場するダンスドラマ「リズスタ-Top of Artists!-」へと路線を変え「子ども向けコンテンツ」として継続しています。

 この10年間「女の子向け」として隆盛したコンテンツたちは、どのIPも「小さな女の子向け」という枠にとらわれない方向へと舵を切り出したのです。

●プリキュアは映画が絶好調も玩具はピーク時の半分以下

 一方、ずっと「女の子向け」として続いている「プリキュア」シリーズはこの秋、絶好調です。

 9月23日に公開された「映画デリシャスパーティ・プリキュア 夢みる・お子さまランチ!」(・はハートマーク)が大好評で、興行収入、動員ともにコロナ禍以前を上回る結果を出し、大復活を果たしています。

 「デリシャスパーティプリキュア」はその作風に合わせ、「ミスタードーナツ」「はなまるうどん」「銀だこ」などと積極的なコラボを展開し、子どもたちへの認知を広げています。

 ただ、映画は絶好調ながら玩具など関連商品の売り上げはピーク時(2010年)の半分以下にまで落ちているのもまた事実です。

 近年の「プリキュア」シリーズは、プリキュア専門ショップ「プリティストア」を中心とした大人に向けた商品展開も積極的に行い販路を広げています。また、かたくなに対応してこなかった「見放題配信サービス」での見逃し配信も2022年に解禁されるなど、プリキュアも時代に合わせ変化しています。

●変わっていく女の子向けコンテンツ

 「催事イベント」「キャラショー」「アミューズメント施設でのゲーム」などがコロナ禍により展開が容易ではなくなったことに加え、かねて少子化も加速し、女の子向けコンテンツは大きく変わってきています。

 講談社『たのしい幼稚園』や『おともだち』といった雑誌媒体も今や3カ月に1回の発行となるなど、女の子向け市場はどんどん縮小しています。

 「テレビ放送と玩具と雑誌とが連動」「アーケード筐体とアニメが連動」といった、この10年間、女の子向けの主流だったビジネススタイルは大きく変わってきています。

 昨今では「ぷにるんず」「すみっコぐらし」「ちいかわ」などのコンテンツが小さな女の子に支持されているようです。また「鬼滅の刃」ブーム以降は「SPY×FAMILY」などの一般アニメも未就学児にまで広がってきています。

 テレビよりもYouTubeを見る子どもたちが多い時代に向けた「女の子向けコンテンツ」はどうなっていくのでしょうか。

 まずは2023年「プリキュア20周年」に注目していきたいですね。

「デリシャスパーティプリキュア」毎週日曜8時30分よりABC・テレビ朝日系列にて放送中(C)ABC-A・東映アニメーション

●著者:kasumi プロフィール

プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。

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