寒くなると温かい飲み物が恋しくなります。あなたが好きな飲み物は、緑茶、紅茶、コーヒーのどれですかとアンケート調査したところ、圧倒的多数がコーヒー派だったのです。なぜ日本人はこうもコーヒー好きなのでしょうか。
年代が高いほどコーヒー好きが多い
ウェザーニュースが、「寒くなる時季の飲み物、あなたは何派?」というアンケートを行いました(2020年10月7~8日実施、10,726人回答)。結果は回答者の67%が他を圧倒してコーヒー派でした。日本人の3人に2人がコーヒー好きなのです。年代別に集計すると、年代が高い人ほどコーヒー派が多いのは意外でした。なぜ日本人はこれほどコーヒー派が多いのでしょうか。
大正期のカフェーブームはハイカラ層
日本人がコーヒー好きになった経緯を歳時記×食文化研究所の北野智子さんが解説します。「日本にコーヒーが入ってきたのは江戸時代ですが、一般の人とは無縁でした。明治時代に洋食店が登場して食後のコーヒーサービスを始めましたが、コーヒーの喫茶店第1号が誕生したのは1888(明治21)年で、カフェー第1号店が誕生したのは1911(明治44)年です。大正から昭和初期にかけてカフェーブームが起こり、喫茶店を含むカフェーの数は東京だけでおよそ3000店あったといいます。しかし、カフェーそのものより日本初の女性給仕人=女給の物珍しさもあって、客はハイカラ層が中心で一般大衆に浸透しませんでした」(北野さん)戦争中はコーヒー豆が途絶し、代用コーヒーが登場しますが、日本にコーヒーが浸透するのは戦後になってからです。
インスタントコーヒーがブームに
「それまで馴染みの薄かったコーヒーを日本人の飲み物にしたのは戦後登場したインスタントコーヒーです。1960(昭和35)年に森永製菓が国産初のインスタントコーヒーを製造・販売しました。1958(昭和33)年に登場した日清のチキンラーメンがインスタントブームをもたらした流れといえるでしょう」(北野さん)森永製菓に続いて、ゼネラルフーヅも国産のインスタントコーヒーを発売。1938(昭和13)年に先行して発売していたスイスのネスレのネスカフェも合わせ、家庭向けPRを流すと瞬く間に日本中に浸透します。
日本で誕生した世界初の缶コーヒー
「UCC上島珈琲が1969(昭和44)年に缶コーヒーを世界で初めて発売し、コーヒーブームの追い風になりました。UCCの缶コーヒーはミルクコーヒーでしたが、1972(昭和47)年にポッカレモン(当時)がドリップコーヒーによる缶コーヒーを発売。1973(昭和48)年には全国におよそ50ものブランドが登場し、自販機とコンビニ店を販路に缶コーヒーブームが生まれました」(北野さん)
コーヒーブームの洗礼を受けた60代以上
ウェザーニュースのアンケートで、60代、70代の年代が高いほどコーヒー派が多いのは、1960年代に登場したインスタントコーヒー、その頃増えた街の純喫茶やジャズ喫茶などの洗礼を受けた世代だからではないかと北野さんは分析し、こう続けます。「家で楽しむインスタントやドリップコーヒー、いつでもどこでも手軽に飲める缶コーヒー、街に増えた戦後の喫茶店を経て現在はそれらを席捲したスターバックスやタリーズなど外資をはじめとしたコーヒーチェーン。こうしてコーヒーは日本人の生活にすっかり定着したのではないでしょうか」(北野さん)秋も深まり、温かいコーヒーがおいしく感じられる季節です。コーヒーを飲むときに少しだけその歴史に思いをはせてみませんか?毎日のコーヒーをより一層深く味わうことができるかもしれません。