老後は「1人暮らし」が幸せ 家族同居より生活満足

1人暮らしの高齢者は家族と同居している高齢者よりも生活の満足度が高く、悩みが少ない-。大阪府門真市の医師が実施した調査からそんな結果が明らかに なった。高齢で体が不自由になると家族の介護が頼りと思われがちだが、体調があまりよくない人でも独居の方が満足度が高かった。調査した医師は「高齢者の お1人さま生活は、実は幸せなのでは」と話している。(加納裕子)

「1人暮らしの高齢者も家族同居と同じぐらい満足度が高いのではないか」。診察の際のやりとりなどを通してこう感じていたという大阪府門真市の耳鼻咽喉 科医院の辻川覚志医師(64)は平成25年、同市医師会の相談電話や日々の診療を通じて聞き取り調査を開始。27年までに60歳以上の約1千人に生活への 満足度などを尋ねた。

その結果、独居の生活満足度の平均は73・5点。同居の68・3点を約5点も上回り、悩みは少なかった。子供の有無や男女による差はなかったという。

家族と同居する人の満足度が低い理由について、辻川医師は「家族への対応に苦慮するため」と分析する。家族とうまくいかなかったり、コミュニケーションが取れなかったりすれば、生活の満足度は急激に下がる。

一方独居なら、体調が悪くても自分のペースで動けて家族に配慮する必要もない。ただし、満足度の高い1人暮らしの条件としては、(1)自由で勝手気まま に暮らせること(2)信頼できる同世代の友人や親類が2~3人いてたまに話ができること(3)住み慣れた土地に住んでいること-と辻川医師は指摘する。

26年の国民生活基礎調査によると、65歳以上の人口は約3400万人。最も多いのが夫婦のみで暮らしている人で38%、続いて配偶者のいない子供との同居26・8%、1人暮らし17・4%、子供夫婦との同居13・8%-と続く。

家族と同居していても満足度を上げるために、辻川医師は“疑似1人暮らし”を推奨している。夫婦2人暮らしなら、夫が自分の食事は自分で準備するなどお互いに自立。子供と住む場合も緊急時以外は連絡せず、なるべく顔を合わせないことでトラブルが回避できるという。

■「あこがれの独身生活」

「大阪府内に住む息子には、私のことは忘れてと言っています。毎日友達と出歩いていて、家にいるのは月に2日くらい。楽しくて仕方ないです」。賃貸住宅で1人暮らしをする前田良子さん(80)は、こう言ってほほえんだ。

前田さんは20歳で結婚し、大阪府東大阪市で夫が経営する会社で働いてきた。3年前に夫が他界し、長男に「一緒に住もう」と誘われたが「あこがれの独身生活を手放したくない」と拒否したという。

現在の住まいに置いているのは、針箱や文箱など必要な物だけ。自分が急病になっても救急車は呼ばないつもりで、購読している新聞の販売店に、新聞が2日 間たまっていたら警察を呼ぶよう依頼している。「息子に迷惑を掛けたくないから。孤独死はかわいそうなんてことはなく、理想。知らん間に死んでいきたいな と思います」と話す。

一方、大阪府内で40代の次男と2人暮らしの女性は「息子とよくけんかしていて、本当に疲れる。『老いては子に従え』というけれど、それも腹が立つ。私 が産んでやったのに…」と苦笑。ただ、「電球が切れたときなど、やっぱり息子に頼る。1人暮らしだったらけんか相手もいないので寂しい」とつぶやいた。

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