“老後2000万円足りない”問題の背景にある「令和24年問題」とは

年金だけでは老後の生活資金が足りず、95歳まで生きるには、夫婦で約2000万円の金融資産の取り崩しが必要になる――。

 6月3日に金融庁が公表した報告書(『高齢社会における資産形成・管理』)が、大きな波紋を呼んでいる。

「100年安心」を標榜する年金制度の“危うさ”はつとに指摘されてきたところではあったが、それにしても制度の脆弱さをなかば認めるような報告書が、まさかの官庁サイドから出されたからだ。

 若年層からは「年金はどうなるんだ。無責任だ」と制度への批判が高まり、高齢者からは「いまさら貯蓄しろと言われても」と不安の声が広がっている。

 さらに麻生太郎金融担当大臣が報道陣に語った、「100まで生きる前提で退職金って計算してみたことあるか? 普通の人はないよ、多分」という小ばかにしたような物言いが、火に油を注ぐ結果となった。ちなみに麻生大臣の家族分を含めた総資産は5億2303万円である(第4次安倍内閣発足時に公開された保有資産)。

金融庁が報告書を出した「真意」

 では、なぜこのような報告書を金融庁は出したのか。

 この報告書は、金融審議会「市場ワーキング・グループ」の議論をもとに作られたものであるが、「はじめに」の中で、「人口減少・高齢化の進展である。わが国の総人口が減少局面に移行した中、長寿化は年々進行し、『人生100年時代』と呼ばれるかつてない高齢社会を迎えようとしている」ため、「個々人においては『人生100年時代』に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと」が必要だと説いている。

 人口減少・高齢化が進展する――。

 報告書に指摘してもらうまでもなく、令和の日本では想像を絶する早さでこの二つが進行していく。それゆえ報告書は、年金だけに頼らず、しっかりと貯蓄をしておくようにと積極的に勧めているのである。

人口減少と高齢化が最も顕在化するのが2042年

 累計70万部を超す『未来の年表』『未来の年表2』の著者で人口減少対策総合研究所理事長を務める河合雅司氏(56)は言う。

「すでに2008年をピークに日本は人口減少に転じ、今年4月、総務省が発表した2018年10月1日時点の人口推計で、総人口は、前年より約26万3000人減の1億2644万3000人と、8年連続の減少となっています。また70歳以上が総人口比で2割を超えた一方、14歳以下の人口は過去最低を記録しました。

 残念ながら令和時代は、これまで以上に、日本の少子高齢化と人口減少が進む時期と重なります」

 人口減少と高齢化が最も顕在化するのが2042年(令和24年)だという。

「団塊世代と団塊ジュニア世代が、すべて65歳以上の高齢者となっているためです。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によると高齢者数が約3935万2000人となり、過去最大に達する。高齢者の絶対数が増えるのにもかかわらず、彼らを受け入れる施設や設備、スタッフは足りない。さらに団塊ジュニア世代は数が多いだけでなく、就職氷河期世代でもあります。非正規社員が増え始め、正社員であっても会社の経営状況が厳しく、賃金が不安定な場合が少なくない。老後に向けた貯蓄が十分でなく、低年金や無年金の老後を迎える高齢者が激増することになるのです。一方で、若者の数はより少なくなっており、その構造が顕在化するのが、この2042年なのです」

世界史においても「例がない」

 その後は急な下り坂を転がるように、人口減少は一気に加速していく。社人研の推計によると日本の人口は、2065年には約8800万人、2117年にはなんと約5060万人にまで減ると言われている。

「大規模な国民を抱える国でこんなにも急激に人口が減り、そして少子高齢化が進行するのは、世界史において、過去に類例がありません。日本はいま、その危機的状況に足を踏み入れてしまっているのです」

 このまま人口が減少し続けると、令和の日本社会はどうなっていくのか。また人口減少に歯止めをかける対策はあるのだろうか。

 河合氏による渾身のシミュレーション「超高齢化日本の『令和24年問題』」は、 「文藝春秋」6月号 に全文掲載されている。

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