老舗温泉、独自の道 ぬるめ専用湯船や料金還元へ健保構想

行楽の秋。「家族で温泉に」という人も多いのではないか。しかし、長引く景気低迷で温泉業界は苦境に陥り、破綻(はたん)する老舗も出ている。そんな中、独自の施策で観光客を取り込む動きが各地の温泉街で広がっている。(小野田雄一)
 ◆常連に気兼ねなく
 福島市の飯坂温泉。俳人、松尾芭蕉が旅の途中で立ち寄ったとされる「鯖湖湯(さばこゆ)」を持つ温泉だが、近年は利用客が減少。飯坂温泉旅館協同組合によると、平成21年の利用客は約82万人で、ピークだった昭和48年(約180万人)の半分以下にまで落ち込んだ。
 飯坂温泉の特徴は熱い湯で、鯖湖湯など各公衆浴場は通常45度以上。市観光課は「慣れていない人には入れない温度。水で温度を下げようとすると常連客から文句を言われたケースもあり、リピーター獲得に問題があった」と話す。
 このため、市は来年1月に営業開始予定の新浴場「波来湯(はこゆ)」に同温泉としては初めて、通常の熱い湯船に42度程度の「ぬるい湯船」を併設。また、一部の公衆浴場では改修して湯船の併設化を実施し、8月27日から営業を始めた。観光客からは「常連客に気兼ねなく入れ、湯温もちょうどよい」と好評のようだ。
 ◆健康、癒やし追求
 飯坂温泉とは異なる手段で観光の活性化につなげようとする試みもある。
 長湯(ながゆ)温泉などで有名な大分県竹田市は、全国初の「温泉療養保健」制度の創設に向け、協議を進めている。市の補助金などで保健組合を設立し、観光客が温泉旅館などに3泊以上滞在した場合、組合から料金の10~20%程度を観光客に還元するというものだ。
 市商工観光課は「中長期滞在者を増やすことで観光を活性化させるとともに、利用者の健康を促進させたい」とし、来年4月の実施を目指して調整中だ。
 全国4600カ所以上の温泉に入った松田忠徳(ただのり)・札幌国際大観光学部教授(温泉文化論)は「現代人は癒やしや健康を求めている」と指摘し、福島市や竹田市の試みは時代のニーズに合ったものだと評価。そのうえで、「温泉関係者は自分たちが良い温泉で人々を元気にし、景気を回復させるくらいの気概を持ってほしい」と話している。

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