肉を食べて小太りに――和田秀樹医師に聞く60歳からの「ボケない習慣」

「年齢を重ねるにつれて、人間の脳の中にある『前頭葉』がどんどん衰えていきます。前頭葉がつかさどるのは、意欲と感情のコントロール。前頭葉が劣化すると、意欲が低下し、物事への関心が薄れ、怒りっぽくなる。そして前頭葉を使わなくなると、ボケが早まります。つまり前頭葉の衰えは脳全体の劣化であり、60歳から日常的に前頭葉を働かせることは、ボケを防ぐためにもとても重要なことなのです」

こう語るのは、著書『80歳の壁』(幻冬舎)が、’22年の年間ベストセラーランキングで第1位に輝いた精神科医の和田秀樹さん。厚生労働省の推計では、現在65歳以上の認知症の患者数は約600万人。だが’25年には約700万人となり、高齢者のじつに約5人に1人が認知症を発症すると予測している。また、団塊の世代のすべてが75歳以上となる’25年には、65歳以上の人口は約3千700万人に達するとも。すでに超高齢社会に突入している日本において、認知症への対策は急務なのだ。和田さんは、自分の体や社会的地位が大きく変化する“60代からの生き方”が、老後の人生を左右するターニングポイントになると話す。

「老化を遅らせる対策を取ることは、長生きにもつながります。そのために、日常生活のなかで前頭葉を刺激し、鍛える習慣をつけておくことで、老化の進行そのものを遅らせることができるのです」(和田さん・以下同)

前頭葉が衰えてきているシグナルとなる習慣がある。たとえば“同じお店にしか行かない”“いつも同じレシピの料理しか作らない”。あるいは“同じ著者の本しか読まない”。さらに、ちょっとしたことでカッとなり、“一度怒りだしたら感情を抑えられなくなる”……。思い当たる項目がある人は、注意したほうがいいかもしれない。

では、60歳からどうやって前頭葉を鍛えればいいのだろうか。

「まず、日常のルーティンを変えること。新しい体験をすることで、前頭葉を刺激する機会を増やしましょう。毎日の生活に少しずつ“変化”をつけることを意識することが重要です」

そこで和田さんに、「60歳からボケないためにやるべき習慣」をアドバイスしてもらった。

■毎日手書きで予定を書く

「毎日、その日の予定や何をしたかなどを手帳に書く習慣をつける。スマホでスケジュール管理をするのではなく、手で書くことが脳の活性化につながります。脳が老化してくると意欲が低下するので、毎日やりたいことを一つ決め、それを実行することも大事。毎日字を書くことも、ボケ予防になります」

■肉を食べて小太りに

「高齢になると、脳の神経伝達物質であるセロトニンという“幸せホルモン”が減少し、気力や意欲が低下する傾向があります。これはうつ病の原因にもなって、脳の老化を早めます。セロトニンを増やすためには、タンパク質を意識的に取ることが必須。肉にはセロトニンの材料となるトリプトファンという必須アミノ酸が豊富に含まれているので、60代以降の人は特に食べたほうがいいです。コレステロールを気にする人が多くいますが、数値は250 mg/dLぐらいまでであれば大丈夫です。私は精神科医として、これまで6千人以上の高齢者と向き合ってきましたが、やせている人より、小太りくらいの人のほうが肌ツヤもよく、健康的で長生きされていますよ」

■たまには大金を使う

「自分の楽しみのためにお金を使う喜びは、脳にとってもごほうびになります。たとえば、毎月1回、高級レストランで奮発しておいしい料理を食べる。あるいは、海外旅行に出かけるのもいいし、高級な温泉旅館に宿泊してみるのもいいでしょう。

大金を使うドキドキ感、そして満足することで得られる幸福感が高まり、前頭葉も活性化します」

■毎日必ず散歩する

「日々の散歩でコースを変えて歩いてみると、新たな発見があったり、今度あの店に行ってみようと意欲が湧くことにつながります。目に入ってくる景色が毎日変わることで、前頭葉のいい刺激になるのです。同時に、歩くことは足腰を鍛える基本的なトレーニングになるので、生きる力にも影響します。毎日の散歩を欠かさないようにしましょう」

■嫌なことはやらなくていい

「60歳からは無理して嫌なことを続けたり、我慢する必要はありません。自分の欲を過度に制限することは大きなストレスとなります。ストレスが蓄積すると免疫力の低下を招き、病気になりやすくなる。できるだけストレスを遠ざける生活を実践し、免疫力を高めましょう」

老後をイキイキと生活していくために、ターニングポイントとなる60代に今から備えよう。

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