肺炎・今だから知っておきたい10の疑問と答え

Q1 肺炎とはどんな病気?

 肺炎はその名の通り、肺の中で炎症が起きる疾患だ。口か鼻から侵入した細菌やウイルス等が、喉を通って肺に入り込むことで炎症を引き起こす。

 杏林大学医学部付属病院・呼吸器内科准教授の皿谷健医師がこう解説する。

「肺炎になると、咳、痰、発熱といった症状が現れ、炎症が広がると呼吸困難も発生して、息苦しさを感じるようになります。肺胞という組織で行っている、血液中に酸素を送り込み、二酸化炭素を取り出す『ガス交換』という機能が働かなくなっていくからです。

 これが進行すると、各臓器に必要とされる酸素を含んだ血液を供給できなくなるという低酸素血症状態になります。すると、各臓器の機能低下が始まり、結果的には多臓器不全に陥ることで亡くなってしまうのです。新型コロナの場合、風邪のような症状が10日程度続き、ある時急にスイッチが入ったように一気に重症化し、多臓器不全に陥るのが特徴です」

Q2 肺炎になる原因は?

 一言で肺炎といっても、いくつもの種類があり、それぞれ原因が違う。

 池袋大谷クリニック院長の大谷義夫医師が解説する。

「代表的なものは、肺炎球菌やマイコプラズマ、黄色ブドウ球菌といった細菌によるものです。高齢者に特に多い誤嚥性肺炎も肺炎球菌が代表的な原因菌。さらに、インフルエンザや今回の新型コロナのようなウイルス、寄生虫や真菌といったものがあります。細菌やウイルスは、基本的には飛沫感染や接触感染により体内に入り込みます」

 こうした微生物以外では、膠原病やリウマチといった免疫疾患が原因となる肺炎や、カビや鳥の羽やフンなどが原因となるアレルギー性の過敏性肺炎、あとは薬剤性肺炎などがある。

 原因によって、肺炎の発生する場所も変わってくる。

「一般的には、細菌が原因の場合は肺胞という、肺全体の85%以上を占める部分が炎症を起こす肺胞性肺炎が多いです。ウイルスが原因なら間質性肺炎が一般的で、これは肺胞を支える組織である間質の部分が炎症を起こします」(同前)

 重症化しやすいのは、インフルエンザウイルスによる肺炎だ。山王病院副院長で呼吸器センター長の奥仲哲弥医師が解説する。

「インフルエンザウイルスが肺に入り込んで肺炎を起こすケースもありますが、それよりも怖いのは、インフルエンザが回復してきた頃に発症する肺炎です。インフルエンザにかかると免疫が下がってしまいます。そこへ肺炎球菌などの細菌が入ってきてしまうことで肺炎を併発するのです。こうした二次的な肺炎は重症化することが多く、命に関わってきます」

Q3 風邪との見分け方は?

 通常の風邪であれば、鼻水、咳、くしゃみ、喉の痛みや発熱といった症状がある。肺炎も咳が続くなど風邪に似ているところが多いが、喉の痛みや鼻水がないのが特徴。肺炎は喉の下、下気道で細菌やウイルスが炎症を引き起こしているからだ。

 さらに肺炎は、咳が長引く、痰が出るといった特徴もある。

 前出の皿谷医師の話。

「まずは1週間、咳が続いたら肺炎を疑った方がいい。あとは痰の色に注意してください。色が付いていると、肺炎の原因となっている細菌が混じっている証拠です。

 たとえば、肺炎球菌では鉄サビ色、レジオネラ菌であればオレンジ色、水周りに多く存在する緑膿菌は緑がかった色をしています。ウイルスであれば透明から白色調になります。そうした痰を出そうとして、咳が続くわけです。一方、新型コロナでは60%程度が空咳で、あまり痰はでないようです」

Q4 どんな症状が見られる? 

 咳が続いたり、痰が出たりという症状を放置しておくと、やがて強烈な痛みが発生するという。前出の奥仲医師が、こう解説する。

「咳が続くことで肋間筋を痛めたり、肋骨が折れたりして痛むことがありますが、実は、肺の中の炎症自体では、ほとんど痛みはありません。ところが、病変が拡大して炎症が肺の内部から臓側胸膜、つまり肺を覆っている膜まで達すると、そこで強烈な痛みが出てきます。くも膜下出血や腹膜炎も同じで、膜に達する疾患は非常に痛いのです」

Q5 致死率はどれくらい?

 日本感染症学会によれば、国内における市中肺炎(日常生活で罹患する肺炎)の患者数は年間約188万人で、約7万4000人が病院で死亡。致死率は6.3%となっている。

「致死率は、外来患者で見ると3%、一般病棟に入院した患者では5~10%です。人工呼吸管理が必要になった患者になると25%とかなり高くなり、さらにICU(集中治療室)で低下した血圧を昇圧剤で引き上げる処置が必要になったような患者では、致死率は50%に達するとされています」(前出・皿谷医師)

Q6 かかりやすい人は?

 今回の新型コロナウイルスによる肺炎もそうだが、糖尿病や心臓病といった基礎疾患がある人は感染リスクが高い。理由としては、こうした基礎疾患が免疫機能を低下させているからだ。

「加えて膠原病や喘息などでステロイドを使用している人は要注意。特に喘息は気管支の疾患なのでその分リスクは高くなります。あとは、腎臓病で人工透析をしている人も免疫力が低下していますし、抗がん剤を投与している人も気をつける必要があります」(前出・奥仲医師)

Q7 高齢者は見つかりにくい?

 高齢になるほど、熱や胸痛といった症状が出にくい傾向があるという。ウイルスに発熱で対抗するといった免疫機能が低下しているのが原因だ。

「普段に比べて食欲がない、だるそうにしている、肩で息をするなど息苦しそう、といった様子も気づきのポイントです。

 あとは、酸素飽和度モニターの購入を勧めています。小型の装置を指にはめるだけで血中の酸素量と心拍数がわかるもので、ネット通販なら5000円程度。肺機能が弱いと指摘されている人は、購入を検討してもいいのでは」(皿谷医師)

Q8 有効な治療法は?

 誤嚥性肺炎のような細菌性肺炎であれば、現在では効果的な抗菌薬が開発されている。少しでも早く肺炎に気づいて受診し、治療を始めることだ。

 一方、ウイルス性肺炎については、一部の抗ウイルス薬を除けば薬がない。安静にして体力を損なわないようにすることが、何より重要だという。

「新型コロナウイルスには、新型インフルエンザウイルスへの準備として用意されていた『アビガン』の使用が検討されています。毒性などの問題はある程度クリアされており、効果が期待されています」(奥仲医師)

Q9 予防ワクチンは打つべき?

 細菌性肺炎のうち、約30~40%は肺炎球菌が原因で、死因7位の誤嚥性肺炎も同菌が原因の一つとなる。これに対応するためにも、肺炎球菌ワクチンは必ず接種したほうがいいという。前出の大谷医師がこう語る。

「肺炎球菌は90種類以上の型があり、そのうち23種に対応するワクチンは、65歳以上なら接種可能で、生涯に一回は自治体の補助もある。それ以外に13種に対応するワクチンもあり、これは自費ですが生涯効果が持続します」

 ワクチンを打ったからといって、必ず肺炎球菌による肺炎を防げるわけではないが、重症化は食い止められる。あとは前述の通り、インフルエンザと併発した場合も重症化するので、インフルエンザワクチンも接種しておくと、より安心だ。

Q10 飲んではいけない薬は?

 肺炎が疑われる場合、咳止めの薬は飲まないほうがいいという。

「咳をして痰を出すことにより、体内から細菌を排出していますが、鎮咳薬はこうした作用を妨げることになります。あとは、解熱剤として市販薬のアスピリン(バッファリン、ケロリン)やロキソプロフェン( ロキソニン 、コルゲン、バファリンEX、クニヒロ)などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を飲むのもお勧めしません。体内のウイルスと闘うために発熱しているのに、それを邪魔することになります。どうしても熱や痛みが辛い場合は、アセトアミノフェン(セデス、ノーシン、ナロン、ハッキリエース、大正トンプク)を選択してください」(同前)

 一方、去痰剤などがお勧めだと話すのは奥仲医師だ。

「ムコダイン、ムコソルバンといった去痰剤は副作用は極めて少なく、いい効果が見込め、私は肺のビオフェルミンと呼んでいます。喫煙習慣が長くて痰が絡むというような人は、常備薬にしてもいいと思います」

 また、細菌性肺炎で処方された抗菌剤は最後まで飲み続けたほうがいい。

「症状が改善したからといって、3日、4日で飲むのを止めるのは間違いです。体内の細菌を退治するためには2~3週間といった一定の期間の服用が必要。途中でやめると、肺炎がぶり返し、しかも重症化する恐れがあります」(同前)

※初出『週刊文春』2020年3月12日号
この記事は皿谷健医師・奥仲哲弥医師・大谷義夫医師にお話を伺って作成しました。
『文春ムック 新型コロナウイルス完全防御ガイド』に掲載されています。

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