脱「1皿100円」で沈むスシロー、くら寿司 値上げが受け入れられない根本原因

くら寿司が2022年10月期の通期決算を発表し、営業利益がマイナス11億1300万円の赤字となった。営業赤字幅は前年のマイナス24億1500万円から縮小してはいるが「本業部分のもうけ」が2期連続で大幅な赤字となっていることは大きな懸念点だろう。

 くら寿司といえば、10月から値上げに踏み切り、回転ずしの代名詞ともいえる「1皿100円」が姿を消したことが話題になった。コロナ禍と原材料費高騰のダブルパンチが飲食業界を襲う中、値上げに踏み切ったくら寿司の決断は正しかったのだろうか。

 12月13日に発表した決算資料上では、赤字の継続する営業利益には言及がなく、経常利益が24億円発生し、親会社株主に帰属する当期純利益は7億円となった点を強くアピールしている。

 しかし、本業の赤字を大きく上回る24億円の経常利益の大部分は、31億円にものぼるコロナ関連の助成金収入によるものだ。前年の助成金収入である52億円と比較して絶対的な額は減少しているものの、いずれの年度も「助成金」が本業の赤字を大きく上回る主要な利益源と化している点は注目に値する。

 今後、コロナ禍による外出制限が緩和されるに伴い、引き続き飲食業界に対する助成金の額が減少していけば、くら寿司のように営業赤字ながら経常黒字を出している企業は、本業の赤字に向き合わざるを得なくなるだろう。特に、値上げは重くのしかかってくる可能性が高い。

●回る寿司、回らない寿司

 回転寿司のビジネスモデルは、手軽な価格で寿司を提供するものだった。「カウンターで大将が握るぜいたくな料理」であった伝統的な寿司業界に、回転するレーンとお手頃価格を武器に、一気にシェアを拡大してきた。回転寿司がメジャーになるにつれ、逆にこれまでの寿司店に対して“回らない寿司”という言葉が生まれたほどだ。

 しかし、度重なる人件費・原材料費の高騰や円安、コロナ禍が1皿100円という相場感の回転寿司ビジネスに転換を迫ることとなった。1皿単価が上がり、また回転レーンではなく、直接お客に寿司を配膳する方式が普及するにつれて、皮肉にも回転寿司チェーンはもはや「回らない寿司店」に変貌しつつあるといえなくもない。

 東京商工リサーチが9月に発表した「大手外食チェーン値上げ・価格改定」調査によれば、「寿司(回転寿司)店でも、加速する円安により輸入魚介類の価格上昇や品薄を理由にした値上げが行われている」とした上で、「燃料が最需要期の冬場を迎え、燃料価格の二段高も懸念され、収益悪化に抵抗するためにさらなる値上げを呼び込む可能性も残している」点を指摘。11月に発表した同調査では、22年に値上げした企業は全体の67.2%で、中でも、回転寿司を中心とした1品当たりの単価が安い業態で複数回の値上げが確認できたとしている。

 くら寿司では10月1日から価格改定によって、1皿100円(税別)の商品が消滅した。税込220円の皿を税込165円に値下げする代わりに、現行価格で税込110円の皿は税込115円へと値上げすることとなった(一部店舗を除く)。同社の月次報告書を見ると、10月、11月ともに既存店の客数が前年割れとなっており、値上げは少なからず影響しているとみられる。

 10月に値上げしたスシローは、度重なる不祥事もあろうが、やはり10月、11月ともに既存店客数が前年割れ。いずれも前年同月比で8割を切るなど、影響はくら寿司よりも深刻だ。

●よみがえる「鳥貴族ショック」

 飲食業界にとって値上げは大きなショックを伴うことが多い。値上げで客足を一気に減らした例で有名なのが、17年10月に値上げを断行した「鳥貴族」のケースだろう。

 同社は人件費の高騰などを受けて、当時28年ぶりとなる値上げに踏み切り、全品280円(税別)均一の価格帯を298円(同前)まで引き上げた。値上げ以降、既存直営店において11月を除く全ての月で客数が前年割れ。売上高も、忘年会シーズンの11〜12月を除く全ての月で前年割れとなり、18年7月期の純利益を下方修正することを余儀なくされた。その後も復調を果たせず、翌19年7月期は上場以来初めての最終赤字へと転落している。

 飲食業界は消費者にとって、特に「他の選択肢」が多い業界である。例えば、水道料金が値上がりしても、お風呂に入ることを控えたり、お手洗いの使用頻度を下げたりということは難しく、また他の水道事業者に乗り換えることも難しいだろう。このような状況を、「価格弾力性が低い」といい、値上げが業績改善に効果的となる。

 それとは対照的に、飲食店は値上げによって需要が減少しやすい業界だ。消費者はくら寿司やスシローが値上げしても、値上げが緩やかなかっぱ寿司やはま寿司、安価を売りにする地元チェーンへと簡単に乗り換えられる。さらに、寿司だけでなく、中華料理店やファミリーレストランのような他の料理カテゴリーとも客の取り合いとなってしまうのが飲食店の悩ましいところだ。

 大手回転寿司チェーンが足並みをそろえて値上げに踏み切っても、値上げをしないチェーンや、それよりも手頃な価格帯の他料理チェーンに客足が流れてしまう可能性に注意したい。「携帯料金」のように主要企業の料金を横ならびにすることで業界全体で見た客足のバランスを維持するような戦略は、飲食業界では成り立ちにくいのだ。

●値上げが受け入れられる条件

 とはいえ、「はい、そうですか」といつまでたっても値上げをしないままでは、なかなか業界が成長しないのも事実。そこで最後に、値上げがすんなりと受け入れられた例として、宅配業界を取り上げたい。今となると宅配業界の値上げは「仕方ない」として受け入れられたように見える。

 その背景には、「送料無料」で気軽に配達を依頼する消費者の増加や、配達時間帯に受け取れない「再配達依頼」の増加によって、配送ドライバーの負担が消費者に理解を得られた点にあるだろう。

 佐川急便の配達員が、顧客の段ボールを地面にたたきつける動画が16年末に大きく炎上したことを覚えている方も多いかもしれない。炎上当初は配送ドライバーや佐川急便に対してバッシング一辺倒であったが、配送ドライバーの過酷な労働環境や待遇にスポットライトが当たる形となり、同情的な声も多く寄せられるようになった。

 消費者が値上げを受け入れるためには、このような「同情」であったり「仕方ない」という理解が必要なのだ。アイス「ガリガリ君」の販売元である赤城乳業は16年、10円値上げのために大規模な謝罪CMを流し、プロモーションとして大成功を収めた。

 一部では、この程度の値上げで社員が謝罪するCMを流すことに違和感を持つ人もいたようだが、結果としてガリガリ君は値上げとともに販売数を増やすという卓越した成果をもたらした。

 今回取り上げた回転寿司チェーンも、今後「値上げがいかにやむを得ない環境か」を消費者に丁寧に理解してもらうことによって、客離れの影響を緩和することができる可能性があるだろう。

(古田拓也 カンバンクラウドCFO)

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