脱ハンコ コロナ禍を慣行見直す契機に

ハンコや紙に依存した慣行の見直しに向けた機運が広がり始めている。いかにビジネスの効率化につなげるか、官民で検討してもらいたい。

 新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛要請を受け、在宅勤務を実施する企業が急増した。ところが、書類にハンコを押すためだけに出社しなければならないというケースが相次いだ。

 緊急事態宣言が解除された後も在宅勤務を続ける企業は多い。密閉、密集、密接を避ける「新しい生活様式」に沿う。経営者からは「働き方改革」や生産性向上に役立っているとの声が出ている。

 それをハンコが妨げているとすれば、改善の余地は大きい。

 ハンコは、本人であることを確認し、文書に信頼性を与える手段として古くから使われてきた。海外では欧米を中心に手書きのサインが一般的で、ハンコの使用は東アジアの国・地域に限られる。

 法令などで押印が義務づけられているのは、不動産の売買契約や会社の代表取締役の変更など一部にとどまる。多くの場合、企業間契約や自治体に出す書類での利用は、あくまで慣行だ。

 法務省は、サインや暗号化の技術で本人だと証明する電子署名でも、法的に有効だと説明する。政府や経済界が本気になれば、慣行の見直しは難しくないはずだ。

 IT企業などでは脱ハンコが進んでいる。メルカリは取引先に社印の押印ではなく、電子署名での契約を依頼している。LINEも原則、書面での契約をやめた。

 金融機関では、ネット経由だけでなく、店頭での口座開設でも印鑑を不要とした銀行がある。

 経団連の中西宏明会長は、4月の記者会見で「ハンコは全くナンセンスだ」と指摘した。多数の取引先や契約を抱えている大企業が率先して乗り出せば、脱ハンコの動きは加速しよう。

 政府や自治体の取り組みも欠かせない。企業側には、役所に提出する文書に印鑑がなければ突き返されるとの不安があるという。

 安倍首相は4月の経済財政諮問会議で、押印などの制度・慣行を見直すよう指示した。

 政府が行政手続きを点検し、ハンコが必要なものと要らないものを分けた指針を出すことなどが求められる。国民の利便性を高める視点で具体策を練ってほしい。

 デジタル化に対応できていない中小・零細企業などへの配慮も、忘れてはならない。事情に応じてハンコとの併用を認めながら、地道に改革を進めていくべきだ。

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