今月11日、東京・渋谷にあるIT大手の本社オフィス。作業スペースの一角では、15人ほどの社員の大半がマスクを外しパソコンに向かっていた。木村まりあさん(25)は「マスクの息苦しさがなく、仕事に集中できる」と笑顔で話した。 【図表】厚労省がマスク着用を「必要なし」とする場所・状況
GMOインターネットグループは昨年9月、職場の「脱マスク」を宣言した。パーティション(間仕切り)のある部屋ではマスク着用を「必須」から「任意」に切り替えた。「マスクは表情や声が届きにくく、コミュニケーション力や活力が低下した。これではビジネスで勝てない」(熊谷正寿代表)との判断からだ。今ではマスクを外す社員が6割に上る。
ただ、同社でもマスクを外せるのは間仕切りのある場所だけで、そこ以外は着用を求める。新型コロナウイルスの主な感染経路は会話などに伴う飛沫(ひまつ)やエアロゾル(空気中に漂う微粒子)とされるためだ。
マスク生活が長期化し、相手の顔が見えないことによる子どもの発育への影響も懸念される。中央大の山口真美教授(認知心理学)は「顔の学習は人間関係を築く上でとても重要。成長期に顔を見ない生活が続けば、社会性が十分に身につかない恐れがある」と警鐘を鳴らす。
政府も、感染リスクが極めて低い場面での過剰なマスク着用を控えるよう呼びかけている。昨年、屋外は「原則不要」、屋内で会話する場合も人との距離を確保して感染対策をとれば外せると明確化した。岸田首相はマスクなしで記者会見に臨むなどアピールしているが、国民に広く伝わっているとは言い難い。
一方、欧米では重症化リスクの低いオミクロン株が主流となった昨年以降、一気に脱マスクが進んだ。ただ、米ニューヨーク市では季節性インフルエンザとの同時流行を受け、屋内公共施設などでの着用を市民に勧告するなど、一部で着用を復活させる動きもある。
日本が欧米よりも感染者・死者数を少なく抑えられたのは、高いマスク着用率が要因の一つとされる。厳しい感染状況が続く中で脱マスクにかじを切る判断は難しい。松野官房長官は16日、マスク着用の考え方について「見直しを検討していくが、具体的な内容を申し上げる段階にはない」と述べるにとどめた。
東京医科大の浜田篤郎特任教授(渡航医学)は「マスクの弊害を考えれば、外す場面を増やすことが望ましいが、不安を覚える人も多い。政府はマスクが必要な場面を『不特定多数の人が集まる公共施設』などとわかりやすく整理するとともに、その根拠を丁寧に説明して理解を得る必要がある」と指摘する。