自国の新型コロナ感染激増をよそに「東京五輪」を中止にしたい韓国メディア

「衛生先進国日本の面目丸つぶれ」
「東京五輪につまずき」
「乗客、乗務員は『五輪の人質』に」

 韓国メディアでは、自国内での新型コロナウイルスの感染拡大をよそに、日本の感染拡大と東京五輪を結び付けた報道が続いている。冒頭で紹介したような報道が特に増えたのは、2月3日にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が横浜港に寄港し、船内での感染が拡大してからだ。

 韓国では早い段階から、東京電力福島第1原発での放射能放出事故を材料に、東京五輪の開催に否定的な報道がなされていた。与党「共に民主党」では昨年、東京五輪ボイコットの主張が起きた。また、「サイバー外交使節団」を名乗る団体が、防護服姿をした東京五輪の聖火ランナーを描いたポスターを作成し、日本でも批判が相次いだ。

 韓国メディアでは、福島第1原発問題に続き、「もう一つ東京五輪開催へのマイナス要素ができた」と言わんばかりに、新型コロナウイルスの感染拡大を五輪に結び付けて報じているのだ。

「国際社会からの目が気になる」

 このような報道が増えた背景には、「ダイヤモンド・プリンセス号」内の感染を加えると、日本での感染者数が韓国を大きく上回っていたことが挙げられる。ところが、2月下旬以降、韓国で新型コロナウイルスの感染が南東部の大邱・慶尚北道を中心に急速に拡大。感染確認者は連日500人規模で増え続け、韓国での感染者数は5186人(3月3日発表)と、中国に次いで2番目の数となってしまった。

 文在寅大統領は3月1日、日本の朝鮮半島統治に抵抗して1919年に起きた「三・一独立運動」の記念式典の演説で、「日本は常に最も近い隣国だ」と述べ、新型コロナウイルスの感染拡大を念頭に、日本に対し「共に危機を克服し、未来志向の協力関係に向け努力しよう」と呼びかけた。

 日本との歴史がからむ記念日の演説で、文氏はこれまで露骨に日本を批判することはなかったが、今回はこれまでの演説の中で最も日本と協力する意思を鮮明にした。韓国が非常事態にあることを素直に認め、感染問題での日本との連携姿勢を示したわけだ。それほど、韓国は現在、感染拡大で大変な状況に直面している。

 いま最も重要なことは「感染者の増加を抑えること」のはずだ。だが、韓国メディアには別のことを気にしているきらいがある。国際社会からの目だ。

 韓国からの入国者を規制・制限している国は少なくとも80の国・地域に増えている。韓国外務省は各国にウイルス感染防止への韓国政府の取り組みを説明し、入国禁止などの措置を控えるよう求めている。日本を含む各国の駐韓国大使を呼び、苦言を呈し要請したという。

 とはいえ、どの国にとっても最も重要なのは自国民の安全確保だ。それが保証されない限り、懇願されても韓国の要請は受け入れられない。

 そんな韓国政府の姿勢が、韓国メディアにとっては実に歯がゆいようなのだ。

「韓国国民がイスラエル、ベトナム、モーリシャスなどで受けた待遇は恥辱的だった」「外交当局、政権の中国に対する態度は消極的というより卑屈にも感じられる」(中央日報社説、2月27日)といった報道にも、その思いが滲む。「フォビア(恐怖症)の拡散で傷ついた国民の心」(中央日報)と、直接的な表現で本心を吐露している記事もあった。

 日ごろ、歴史認識問題などで「日本が国際的に孤立している」と一方的に報じる韓国メディアは、実は自国の国際社会での孤立や疎外を非常に気にしている。実は傷つきやすいのだ。

それでも続くアラ探し

 韓国ではいま、新型コロナの感染拡大について、政府への責任論も続出している。大統領府の請願掲示板に寄せられた「文在寅(ムン・ジェイン)大統領の弾劾請願」は2月末に100万を超えた。韓国紙は連日のように韓国政府を「無能」と報じているが、一方で東京五輪への“アラ探し”は、2月下旬以降も続いている。

「あと5カ月と迫っている東京五輪の準備に『赤信号』がともっている」(朝鮮日報、2月24日)

「検査後に感染者が急増すれば、東京五輪開催に打撃を与えかねないため、(日本政府が)検査に消極的なのではないかという疑惑も持ち上がっている」(ハンギョレ紙、2月27日)

 いずれも韓国紙の東京特派員によるものだ。

 東京五輪のために新築された新国立競技場での英語表記に誤記が多いという、外国メディアの報道を引用しての報道も複数あり、「デタラメで国際的な恥さらし」(中央日報、2月26日)などと、露骨な見出しをつけているメディアもあった。

 さらに韓国の感染危機に際して日本を同等に扱いたいという思いがうかがえる報道もある。朝鮮日報(2月28日)は次のように報じている。

「今、世界で国民の安全より政治を優先している国は韓国と日本の2国だ。(韓国は)習近平訪韓のため、(日本は)五輪のため、中国の感染源を早期遮断しなかった。その結果はどういうものだったか」

 韓国は、感染の発生源であった中国にマスクや防護服を提供し、文大統領が2月20日、習近平国家主席に電話で「中国の困難はわれわれの困難」と伝えるなどしているが、中国の反応は冷淡だ。今年上半期に期待されている習主席の訪韓も雲行きが怪しい。

 韓国政府の対応に遅れがあったとすれば、そんな中国への配慮からかもしれないが、東京五輪まで並列で語る必要があるのだろうか。韓国メディアのいわれなき“東京五輪バッシング”は、しばらく続きそうだ。

「衛生先進国日本の面目丸つぶれ」
「東京五輪につまずき」
「乗客、乗務員は『五輪の人質』に」

 韓国メディアでは、自国内での新型コロナウイルスの感染拡大をよそに、日本の感染拡大と東京五輪を結び付けた報道が続いている。冒頭で紹介したような報道が特に増えたのは、2月3日にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が横浜港に寄港し、船内での感染が拡大してからだ。

 韓国では早い段階から、東京電力福島第1原発での放射能放出事故を材料に、東京五輪の開催に否定的な報道がなされていた。与党「共に民主党」では昨年、東京五輪ボイコットの主張が起きた。また、「サイバー外交使節団」を名乗る団体が、防護服姿をした東京五輪の聖火ランナーを描いたポスターを作成し、日本でも批判が相次いだ。

 韓国メディアでは、福島第1原発問題に続き、「もう一つ東京五輪開催へのマイナス要素ができた」と言わんばかりに、新型コロナウイルスの感染拡大を五輪に結び付けて報じているのだ。

「国際社会からの目が気になる」

 このような報道が増えた背景には、「ダイヤモンド・プリンセス号」内の感染を加えると、日本での感染者数が韓国を大きく上回っていたことが挙げられる。ところが、2月下旬以降、韓国で新型コロナウイルスの感染が南東部の大邱・慶尚北道を中心に急速に拡大。感染確認者は連日500人規模で増え続け、韓国での感染者数は5186人(3月3日発表)と、中国に次いで2番目の数となってしまった。

 文在寅大統領は3月1日、日本の朝鮮半島統治に抵抗して1919年に起きた「三・一独立運動」の記念式典の演説で、「日本は常に最も近い隣国だ」と述べ、新型コロナウイルスの感染拡大を念頭に、日本に対し「共に危機を克服し、未来志向の協力関係に向け努力しよう」と呼びかけた。

 日本との歴史がからむ記念日の演説で、文氏はこれまで露骨に日本を批判することはなかったが、今回はこれまでの演説の中で最も日本と協力する意思を鮮明にした。韓国が非常事態にあることを素直に認め、感染問題での日本との連携姿勢を示したわけだ。それほど、韓国は現在、感染拡大で大変な状況に直面している。

 いま最も重要なことは「感染者の増加を抑えること」のはずだ。だが、韓国メディアには別のことを気にしているきらいがある。国際社会からの目だ。

 韓国からの入国者を規制・制限している国は少なくとも80の国・地域に増えている。韓国外務省は各国にウイルス感染防止への韓国政府の取り組みを説明し、入国禁止などの措置を控えるよう求めている。日本を含む各国の駐韓国大使を呼び、苦言を呈し要請したという。

 とはいえ、どの国にとっても最も重要なのは自国民の安全確保だ。それが保証されない限り、懇願されても韓国の要請は受け入れられない。

 そんな韓国政府の姿勢が、韓国メディアにとっては実に歯がゆいようなのだ。

「韓国国民がイスラエル、ベトナム、モーリシャスなどで受けた待遇は恥辱的だった」「外交当局、政権の中国に対する態度は消極的というより卑屈にも感じられる」(中央日報社説、2月27日)といった報道にも、その思いが滲む。「フォビア(恐怖症)の拡散で傷ついた国民の心」(中央日報)と、直接的な表現で本心を吐露している記事もあった。

 日ごろ、歴史認識問題などで「日本が国際的に孤立している」と一方的に報じる韓国メディアは、実は自国の国際社会での孤立や疎外を非常に気にしている。実は傷つきやすいのだ。

それでも続くアラ探し

 韓国ではいま、新型コロナの感染拡大について、政府への責任論も続出している。大統領府の請願掲示板に寄せられた「文在寅(ムン・ジェイン)大統領の弾劾請願」は2月末に100万を超えた。韓国紙は連日のように韓国政府を「無能」と報じているが、一方で東京五輪への“アラ探し”は、2月下旬以降も続いている。

「あと5カ月と迫っている東京五輪の準備に『赤信号』がともっている」(朝鮮日報、2月24日)

「検査後に感染者が急増すれば、東京五輪開催に打撃を与えかねないため、(日本政府が)検査に消極的なのではないかという疑惑も持ち上がっている」(ハンギョレ紙、2月27日)

 いずれも韓国紙の東京特派員によるものだ。

 東京五輪のために新築された新国立競技場での英語表記に誤記が多いという、外国メディアの報道を引用しての報道も複数あり、「デタラメで国際的な恥さらし」(中央日報、2月26日)などと、露骨な見出しをつけているメディアもあった。

 さらに韓国の感染危機に際して日本を同等に扱いたいという思いがうかがえる報道もある。朝鮮日報(2月28日)は次のように報じている。

「今、世界で国民の安全より政治を優先している国は韓国と日本の2国だ。(韓国は)習近平訪韓のため、(日本は)五輪のため、中国の感染源を早期遮断しなかった。その結果はどういうものだったか」

 韓国は、感染の発生源であった中国にマスクや防護服を提供し、文大統領が2月20日、習近平国家主席に電話で「中国の困難はわれわれの困難」と伝えるなどしているが、中国の反応は冷淡だ。今年上半期に期待されている習主席の訪韓も雲行きが怪しい。

 韓国政府の対応に遅れがあったとすれば、そんな中国への配慮からかもしれないが、東京五輪まで並列で語る必要があるのだろうか。韓国メディアのいわれなき“東京五輪バッシング”は、しばらく続きそうだ。

(名村隆寛(産経新聞ソウル支局長)/週刊文春デジタル)

(名村隆寛(産経新聞ソウル支局長)/週刊文春デジタル)

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