国立感染症研究所は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の今年の患者数が、16日時点で1060人(速報値)と1999年の感染症法による届け出開始以降最多を更新している。「溶連菌感染症」は劇症化することで「人食いバクテリア」とも呼ばれ、手足の痛みや多臓器不全など全身症状を引き起こし、致死率は「30%」とされる。溶連菌は夏場に増えやすいとされ、今後の動向が懸念される。
劇症化した溶連菌感染症はここ数年で増加傾向だ。昨年の国内の患者数も過去最多の941人だったが、今年は半年足らずで記録を更新した。
東京都の資料によると、都内で23日時点の劇症型溶連菌の感染者は159人で、昨年の141人をすでに上回った。3月17日までのデータでは、90人の感染者中、死者は27人(30%)だった。昨年は141人中42人(29・8%)が死亡した。
急増の背景について、東北大学災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学)は「昨年の流行で注意して医療機関を受診する人が増えたため統計に反映された可能性もあるが、それにしても不可解な増え方だ。溶連菌自体は手足や口の中に存在する常在菌なので、人間は免疫を持っているはずだが、コロナ禍の感染症対策によって溶連菌感染症自体も減少したため、免疫が低下した可能性もある。細菌側が変化したのか研究もされているが、現時点で報告はない」と解説する。
厚生労働省などによると、一般的に溶連菌は、急性咽頭炎(のどのかぜ)などを引き起こす細菌だが、まれに劇症化する。
症状は腕や足の痛みや腫れ、発熱、血圧の低下などから始まることが多く、その後に組織の壊死(えし)や、呼吸状態の悪化、肝不全、腎不全などの多臓器不全を起こす。場合によっては数時間で急速に悪化するとされている。
児玉氏は「細菌が血管に侵入して全身に広がって臓器や皮下に入り込んで毒素を生み出すことで症状が出る。のどの症状が発端となるケースもあれば、劇症化の症状が即時に出る場合もある。主に接触感染が多く、成人が劇症化するケースもある」と話す。
今年は病原性が強く感染が広がりやすいとされる「M1UK」株が増えており、3月時点で関東地方を中心に検出されている。
児玉氏は「一般的に溶連菌は夏に増えるといわれる。抗生物質が効果的だが、劇症化すると治療はより困難となる。歯茎の出血部分やのどの炎症から細菌が侵入することもあるため、予防するには歯磨きなど口腔内ケアや、傷口がある場合は消毒を怠らないようにするのも大切だ。発熱が続いたり、手足の熱感と痛みの症状が気になれば早期に医療機関を受診してほしい」と強調した。