芸能人がSNSで声を上げ、メディアも報道ーー芸能界の性加害、日韓マスコミの対応の差

ジャニーズ事務所の創業者、故・ジャニー喜多川氏の所属タレントへの性加害問題については、1980年代に元タレントが被害を訴える手記を出版、90年代後半から00年代には週刊誌が被害者の証言などを報じていたが、現在の騒動に発展したのは今年3月の英公共放送BBCによる告発ドキュメンタリーがきっかけだった。大手芸能事務所への長年の“忖度”の構図が明らかになった日本のマスコミ、一方で韓国のマスコミは、自国の芸能界の性加害・セクハラ問題を積極的に報道している。

9月7日、東京都千代田区のパレスホテル東京で開かれたジャニーズ事務所の記者会見。その冒頭、藤島ジュリー景子氏(現代表取締役)が上記のように発言した。2019年に87歳で死去したジャニー喜多川氏の性加害をめぐる騒動を受け、ジャニーズ事務所側が公式に謝罪した格好となった。

芸能業界における性加害やセクハラ問題は、韓国も例外ではない。今年1月には、男性アイドルグループ「OMEGA X」が、「酒席でセクハラ被害を受けた」などとして所属事務所「SPIRE ENTERTAINMENT」を相手取った裁判で勝訴。昨年11月にOMEGA Xが開いた会見の衝撃は大きく、日本でのマネジメントを担当していた株式会社SKIYAKIが所属事務所との業務提携を解消している。

2020年に明るみになった、テレグラム等を利用した性犯罪事件「n番部屋事件」では、多くの芸能人がSNSなどを通じて加害者に対する厳罰処分を訴えたことで事件に対する世間の関心が高まったとされる。今年8月には大阪で開かれた野外ライブで、韓国人DJのDJ SODA氏が観客と触れ合った際に「胸を触られた」などとSNSで被害を告発し、日韓のメディアが報じたことも記憶に新しい。

冒頭に触れたジャニーズ問題では、日本のマスコミがジャニー喜多川氏の性加害について報道してこなかった。筆者が実際に感じたことを記すと、①ジャニーズの性加害について昔から触れていたのは雑誌や書籍が中心、②日本のマスコミが報道してもあまり大きく扱わないーーという印象であった。背景には様々な理由があるのだろうが、その一つは「忖度」に違いない。「自社のテレビ番組に所属タレントが出演しているため、ジャニーズ事務所にとってマイナスとなることはあまり報道したくない。事務所に配慮したい」「ジャニーズの疑惑について報道すると、何らかの圧力がかかり、仕事をすることが難しくなるため報道したくない」などの理由だろう。

一方、韓国芸能界の性加害に対する韓国マスコミの対応は真逆だと感じている。韓国の革新系大手メディア「ハンギョレ」は昨年8月にとある記事を掲載。芸能事務所の名前は出さなかったものの、ある芸能事務所の代表が10代女性に対して「着ていた服を脱げと言った。続いて強制わいせつをはたらいた」として警察に告発され、捜査中であることを報じた。

19年1月には、韓国のスポーツメディア「スポーツソウル」もセクハラ疑惑を報道。「韓国芸能プロダクションの女社長が、練習生6人にセクハラしたとして告訴された」とし、地元メディアの「YTN star」の報道を引用した。記事をまとめると、事件はプロダクションの練習生が公演のため日本を訪問した際に発生。新大久保で食事会をしていたとき、事務所の女性代表と事務所会長の妻で代表の妹でもある人物がわいせつ行為を行ったとしている。

韓国では法律の“抜け穴”を補い、芸能人を含む芸術家の人権侵害の防止などを目的として、21年9月に「芸術家の地位と権利の保証に関する法律(芸術家権利保障法)」が制定され、翌年9月から施行されている。法律の対象範囲にはアイドル練習生などを含む「予備芸術家」も含まれ、予備芸術家が救済を求める際には「(被害の)証明を要さない」と規定。第5章には、国が「芸術家の権利保障及びセクハラ・性的暴力被害救済委員会」を設置すると明記されている。アイドルや練習生も含め、芸能関係者の救済方法が手厚くなったと言えるかもしれないが、前述のOMEGA Xの事例から見るように、法律の施行が性的被害の防止になっているのかどうかを判断するには時期尚早と言わざるを得ない。

再び日本の芸能界に目を向けてみると、今後はジャニーズ所属アイドルが占めていたテレビ番組やCMの枠が空く可能性も大いにある。この空いた“キャパ”を埋めるために韓国のアイドルが日本で活動の場を広げる可能性も否定できないが、筆者は日本のアイドルがもっと活躍すべきだと考えている。日本には埋もれているアイドルがごまんといる。新型コロナウイルスによる影響で私たちが勉強したように、海外をあてにするのではなく第1段階としてまずは日本芸能界を盛り上げていくべきだ。日本で人気アイドルになればそれが海外にも伝わり、韓国や他の国に呼ばれるかもしれない。ジャニーズ問題で暗い雰囲気が漂っている現在、まずこのような取り組みを進めるのが日本芸能界の責務だろう。

今回のジャニーズ問題は以前から指摘されてきた問題でもある。日本の大手マスコミもこの問題について知っていたはず。「知っていたが報道できなかった」と本音で謝罪し、考えを改めるべきだ。そうすれば完全な信頼回復とはいかないまでも、「少し見直した」と評価する声が挙がるかもしれない。

小林英介 業界紙記者として働く傍ら、ビジネスや社会問題などについて取材・執筆している。

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