芸能界・スポーツ界の姉妹は“妹優位”という説は本当か

芸能界やスポーツ界の姉妹は、妹のほうが大成する──。巷に囁かれているこの説は本当なのか。国際基督教大学教養学部元教授の磯崎三喜年氏(社会心理学)はこう話す。

「概して姉は大事に育てられ、親からの期待や注目を集めます。その環境下で、妹はどうやって注意を引こうかと考える。そのため、姉は慎重になりがちですが、妹は思い切りよく変化する勇気を持っている。型破りな性格がこの2つの分野では生きてくるのです」

 芸能界デビューした姉妹を見ると、原田知世(姉・貴和子)や松たか子(姉・松本紀保)、上野樹里(長姉・DJ SAORI、次姉・まな)、有村架純(姉・藍里)など、女優は特に“妹優位”の傾向が強くなる。

 磯崎氏の言葉を裏付けるように、当代随一の人気姉妹である広瀬アリス・すずは雑誌の対談でお互いをこう語っている。

〈すず:お姉ちゃんは考えて考えて……ってタイプ。(中略)アリス:すずは直感型〉

 歌手では、岩崎宏美と良美、中山美穂と忍のように、一見“姉優位”にも見えるが、妹も負けじと存在感を出している。芸能論家の宝泉薫氏が分析する。

「女優はいろいろな役柄をこなせるし、違う味を出しやすい。一方、歌手は声が似ているし、どうしても二番煎じに見られてしまう。差別化に苦労するため、先に世に出た姉のほうが有利になります。しかし、岩崎良美も中山忍も、女優業をきっかけに新境地を開拓しました」

 良美は歌手デビューから4年後の1984年、ドラマ『スクール☆ウォーズ』でラグビー部のマネージャー役に。このときの演技が評判を呼び、翌年には『タッチ』という大ヒット曲を生んだ。忍は1988年に歌手デビューしたものの、実質2年間で歌手活動休止。1990年代から女優業に絞ると、現在では“2時間ドラマの新女王”と呼ばれるまでに成長した。

◆スポーツ界はどうなっているか

 スポーツ界に目を移しても、傾向は変わらない。テニスの大坂まり・なおみ、フィギュアスケートの浅田舞・真央、スピードスケートの高木菜那・美帆、レスリングの伊調千春・馨など、日本を代表する姉妹たちも妹の活躍がより目立っている。

 姉の影響を受けて育った大坂なおみが3歳、高木美帆が5歳から競技に取り組んだように、妹のほうが競技開始年齢が早くなる利点もある。だが一方で、“妹”という環境こそがその後のアスリートとしての成長に大きく関係しているという。

「子供の頃、妹は姉と比べて身体も小さいし、知識も少ない。負けて当たり前という状態からスタートするため、我慢強く、ヘコたれず、反骨心も備わってくる。スポーツに必要なメンタリティーが自然と身に付いていくのです」(前出・磯崎氏)

 実際、大坂なおみは雑誌取材で幼少期をこう振り返っている。

〈毎日姉にコテンパンに負けていました。でもなぜ勝てないのか理解できず、毎日負けたことに怒って、明日は勝ってやると挑戦し続けていました〉

 一方で、妹に後塵を拝しがちな姉の奮闘も見逃せない。平昌五輪では、高木姉妹が女子スピードスケート団体パシュートで金メダルを獲得。カーリング女子で銅メダルに輝いた「LS北見」では吉田夕梨花、知那美という姉妹が存在感を発揮した。

「高木菜那は天才的な妹・美帆がいる中で、どう自分のポジションを確立するか考えたのでしょう。それが団体戦と個人のマススタートでの金に結びついた。兄弟と比べて、姉妹は中学生くらいになると、お互いの良さを認め合える。これも大きいでしょう」(磯崎氏)

 芸能界でも同じことが言えるという。前出・宝泉氏が語る。

「顔や経歴も含め、まったく同じタイプは、1人いれば十分。姉妹は何らかの差別化が必要です。たとえば、荻野目姉妹は慶子が女優、洋子が歌手ですし、スキャンダルの有無もあり、姉妹ながらもまったく異なる色を出せています。石田ゆり子、ひかりは外見が似ていませんし、未婚と既婚という生き方の違いもあります」

 1990年代前半は妹のひかりがNHK朝ドラの主演や紅白歌合戦の司会を2度務めるなど時代の寵児となっていたが、最近は姉のゆり子がドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』などの好演で脚光を浴びている。裏を返せば、姉妹同時の大活躍は困難を極めるというのが現実だ。

「最近、広瀬アリス・すず姉妹は姉のアリスが猛追し、2人とも女優として引っ張りだこになっている珍しいケース。荻野目、石田姉妹を含め、彼女たちはいずれも兄か姉がおり、一番上ではない。その影響もあるのでは」(宝泉氏)

 姉なくして妹なし、妹なくして姉なし。切磋琢磨する姉妹が日本を盛り上げている。

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