若い女性に目立つ東北離れ 働き方の多様な東京圏へ転出

人口減少が進む東北で、若い女性の東京圏への転出が目立つ。とりわけ多いのが大学生の就職期に当たる20~24歳。東北活性化研究センター(仙台市)が昨年行った調査では、望んだ仕事が見つからず、地元を離れている現状が鮮明になった。若い女性に選ばれる地域になるには、何が必要なのか。
(生活文化部・菊地弘志)

 2020年の住民基本台帳人口移動報告によると、東北6県の女性の県外への転出者数は表1の通り。20~24歳が1万8973人と全体の29%を占め、全国平均より5ポイントほど高く、転出先(表2)は東京圏(東京都、埼玉、千葉、神奈川の3県)が1万330人と全体の半数を超え、男性(9937人)を上回る。

 センターは20年6~9月、東京圏に転出したり、いったん転出した後で地元に戻ったりした18~29歳の女性2300人を対象にアンケートを実施。その結果、地元を離れる理由(複数回答)で最も多かったのは「やりたい、やりがいのある仕事が地方では見つからない」(58・9%)だった。

 センターは「娯楽や暮らしやすさよりも、就職期に魅力的な仕事を求めて東京圏に出て行くことがはっきりした。地方離れに歯止めをかけるには、進学や子育てに関する施策より、就職期に選ばれる労働環境を整えることが先決だ」と指摘する。

自分たちが求める地域や仕事について語り合ったワークショップ=9月(東北活性化研究センター提供)

地元企業の情報、就職期の学生に届かず

 危機感を強めたセンターは今年9月、東京圏、仙台圏の大学生ら計10人を集め、「女性定着に関する学生合同ワークショップ」をオンラインで開催。「自分が望む働き方」「東北圏が若い世代にとって魅力的な地域になるには」の2テーマで意見交換した。

 ほとんどの参加者が共働きを希望し、ワークライフバランスを重視して働きたいと訴えた。「キャリアを積んで、妊娠・出産後も責任ある仕事を続けたい」「社内保育所やベビーシッター制度があれば、実家が離れていても安心して働ける」。いずれも理想とする職場像を思い描き、具体的な要望を挙げた。

 秋田県に実家があり、東京のITコンサルティング会社に就職が内定した仙台市の大学4年生は「地方にも魅力的な企業はあると思うが、地元の学生にすら情報が十分届いていない。東京圏に出た学生はなおさら情報を得にくいと思う」と指摘した。

 講師を務めたニッセイ基礎研究所(東京)の人口動態シニアリサーチャー天野馨南子(かなこ)さんは「地方の企業のホームページはどこも似たり寄ったり。せっかく良い取り組みをしていても、知られなければ意味がない。工夫を凝らした伝え方で若者に届くように発信することが欠かせない」と話した。

 天野さんによると、10~19年に女性の転出が転入を上回ったのは、38道府県で計約70万人。その22%を東北が占めるという。「転出した若者を呼び戻すだけでなく、東北はIターンを呼び込むことも大事になる。保育所やベビーシッターの充実は、効果的なPRになる」とアドバイスする。

仕事と家庭の両立が可能な環境整備を

 若い女性が地元にとどまり、自分に合った働き方を実現するために、東北の企業や自治体は何をすべきか、東北活性化研究センターの橋本有子地域・産業振興部主任(44)に聞いた。

 若い女性たちは結婚や子育てを含めたライフデザインを描き、多様な就業機会、働き方を望んでいる。企業には、女性の雇用創出や、男女共に仕事とキャリアを継続しながら、結婚、出産、育児、介護ができる労働環境が求められる。

 東北を離れる背景には、男女間や親子間のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)がある。「結婚や妊娠・出産をしたら、女性は家庭に入るべきだ」「お茶くみは女性にやってほしい」といった風潮は、若い世代に閉塞(へいそく)感をもたらす。

 例えば、営業職を希望しても女性の求人がなかったり、職場で同じ仕事をしていても重要な用件は男性に任せたりしている。仕事の選択肢が幅広い東京圏は魅力的に映る。

 行政の役割も重要になる。現在は子育て世代をターゲットにした移住・定住対策に重点が置かれているが、未来の子育て世代となる若者のニーズを踏まえておらず、的外れになっている。職場の改革に取り組んでいる企業の情報を広く伝える支援が欠かせない。

 若い女性のいない地域では出生率が下がり、人口減少が加速する。経済は衰退に向かい、地域社会の維持も危うくなる。目前の危機であり、地域全体で受け止めるべき課題だ。

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