若者が「ジーンズ」をはかなくなった? 生産10年で3割減

若者のジーンズ離れが加速している。

休日の大阪・ミナミで観察すると、ジーンズ姿は半数以下。カラフルな短パンや、両サイドにポケットがついたカーゴパンツ、腰をひもでしめるイージーパンツなど、さまざまなカジュアルパンツをはいた人たちが行き交う。ジーンズメーカーなどでつくる日本ジーンズ協議会の調査では、年間のボトムス生産量は、10年で3割以上減り、ピーク時の4割減にまで落ち込んだ。かつて若者ファッションの定番だったジーンズだが、カジュアルスタイルの多様化で揺らいでいる。ジーンズファッションはなくなりつつあるのだろうか。(張英壽)

日曜の調査でも100人中30人

大阪・ミナミの戎橋。グリコ看板が望めるこの橋は、昔も今も若者が集う代表的スポットだ。

人々がカジュアルな服装になる日曜日に、道行く人がどれだけジーンズをはいているか観察してみた。

まず男性について調査。目視でカウントすると、100人中40人弱がジーンズをはいていた。もう一度、男性を確認すると、今度は30人弱だった。

その後、秋がやや深まった日曜日に、改めて男性のボトムスを観察しても、ジーンズをはいた男性は100人四十数人だった。

一方、スカートなどさまざまなボトムスを着用できる女性も、100人中30人弱となった。

男女いずれにしても、半数以上がジーンズ以外のズボンやスカートをはいていたことになる。日曜日だったこともあり、スーツなどフォーマルな服装はほとんどなく、短パンやチノパン、カーゴパンツなどが目立った。

短パン、チノパン増え「ジーンズは暑い」

では、ふだん、どの程度の頻度でジーンズをはいているのか、ミナミで聞いてみた。

「ジーンズはあまりはきません。休みの日には、ジャケットと細めのチノパンです。ジーンズは2本持っていますが、チノパン系は10本くらいあります」と話すのは、大阪市西区のIT会社員の男性(24)。

大阪市住吉区の会社員、山本悠司さん(32)は「10年くらい前に比べたら、ジーンズをはくことは少なくなった。チノパンをはくことが多い。暑いときは短パン」。山本さんとほぼ同年代の大阪府和泉市の会社員、藺牟田(いむた)直紀さん(33)も「昔はいろんなブランドのジーンズを集めていたけど、今はあまりはかない。短パンやカーゴパンツに変わってきた。ジーンズは夏は暑い」と語る。

「20代の頃、Tシャツとジーンズは若者の象徴で、真夏はそのスタイルだった。当時、ジーンズ専門店がいっぱいあったけど、今は探しにくいね」とバブル時代前後を思い出したのは、兵庫県川西市の男性会社員(46)。だが、現在は「ジーンズをはくことは少なくなった。チノパンのような、何というかわからないけど、そういうのをはく。夏は短パンとか短めのチノパン」。

夏だけでなく、秋口でもまちにあふれる短パン。カラフルなものもあれば、いろんな柄が施されたデザインもあり、丈も膝下から膝上までさまざま。

「私が20代の頃は、短パンでまちを歩くというのは、恥ずかしかった」と振り返るのは大阪府河内長野市の男性会社員(47)。「私は真夏でもジーンズにポロシャツでしたよ。暑いけどはいていた」。しかし、「40歳を超えておなか周りがきつくなり、ジーンズははかなくなった。はくならピシッとはきたい」とか。

生地や縫製技術は世界トップクラスだが…

エドウィンやビッグジョン、リー・ジャパンといったジーンズメーカーなどでつくる「日本ジーンズ協議会」。タレントらが選ばれる「ベストジーニスト」を主催する団体として有名だが、その加盟企業の生産量をまとめた統計によると、ブルージーンズやカラージーンズ(チノパンを含む)などボトムスの生産量は、平成14年は7072万8千着だったが、24年は4650万8千着と34%減の落ち込みとなった。ピーク時は平成8年の7777万1千着で、当時と比べると40%以上も減っている。

同協議会は昭和56年に設立。62年から生産量の統計をとりはじめ、7千万着台か少ない年でも6千万着台で推移していたが、平成20年に5千万着台に落ち込み、22年から4千万着台となっている。

協議会の統計は24年が最後で、それ以降発表されていない。その理由は、協議会に加盟していない「ユニクロ」や「無印良品」などのジーンズブランドが多くなり、統計が実態を表さない可能性が出てきたためだというが、ジーンズ生産がかつてに比べ減っているという見方は関係者で一致している。協議会は25~27年について調査をしていないが、関係者は「横ばい」とみている。

協議会の浅野友城専務理事(69)は「日本のジーンズは生地や縫製技術は世界トップクラスだが、残念ながら一時の勢いはない。ただ、盛り返しつつある」と話す。別のジーンズ業界の関係者も「底を打ったのではないか。これからは上がっていくだろう」と希望を託した。

選択肢増え、多種多様になったボトムス

ところで、なぜジーンズがはかれなくなっているのだろうか。

現在、男性用ボトムスは実に多種多様なパンツが販売され、ミナミの街頭でも確認できた。

両サイドに大きめのポケットがついたカーゴパンツやワークパンツ、ウエストにひもなどを使ったイージーパンツ、すそがしまったジョガーパンツ、7分程度の丈のクロップドパンツ、昔は部屋着のイメージが強かったスウェットパンツ…。

バブル時代やそれ以前、男性のカジュアルなボトムスといえば、ジーンズかチノパンくらいしかなかったが、選択肢が大幅に増えているといえる。

カジュアルスタイルの多様化で、ジーンズがはかれなくなっているのではないか。浅野専務理事らジーンズ業界関係者に取材すると、一様に認めた。

「トレンドアイテム」ではなくなった

ジーンズ業界を業界紙記者として長年にわたり取材してきたファッションジャーナリストの南充浩(みつひろ)さん(46)もカジュアルファッションの多様化を原因にあげ、「ジーンズは平成21、22年ごろからトレンドアイテムではなくなった」という。一方で、ボトムスの多様化とともに、ジーンズブランド自体が大幅に増えたこと変化も指摘する。

近年、ユニクロや無印良品など製造から販売までを行い低価格で販売する「SPA企業」と呼ばれるメーカーが増えたほか、百貨店に店を構える高級ブランドもジーンズを販売するようになった。こうしたブランドは、ジーンズ協議会には加盟していないため、生産調査の統計には当然入っていない。協議会が平成25年から生産調査をやめたのも、加盟社以外のジーンズ生産が多くなったためだ。

南さんは「二十数年前、ジーンズのブランドで思い浮かぶのは数社だったが、今やジーンズを扱うブランドは200くらいある」と明かす。それらは、ユニクロなどの低価格をウリとするブランド、従来あるメーカー、さらに高級ブランドと、価格帯が3階層に分かれているという。そんな中でもジーンズ需要は減少傾向にあり、増えないパイを取り合う形になっている。

ボトムスの多様化とジーンズブランドの増加。南さんは「若者でも1週間ずっとジーンズばかりをはくという人は少なくなった。きょうはジーンズでも、あすはカーゴパンツ、あさってはイージーパンツというように日々身につけるパンツを替える時代」と語る。

かつての勢いはないとはいえ、それでも今年は久しぶりにジーンズトレンドが戻ってきたという。ジーンズは長期的にはどうなるか。南さんはこう答えた。

「ジーンズは今後、トレンドによって生産量が上がったり下がったりするだろうが、よほど大きなトレンドがない限り、大幅な上昇はないのではないか。二十数年前のようにだれもがはく状況ではなくなった」

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