最近、コメディアンの萩本欽一さんが73歳にして大学に合格したというニュースが、世間をあっと驚かせました。
現在は50歳以上年下の同級生たちに囲まれ、充実した日々を過ごしているといいます。
年をとっても遅すぎることはないということを自ら証明し、多くの人に元気と勇気を与えた萩本さんですが、もともとは「認知症を予防するため」に勉強を始めたといいいます。
実際に、勉強をすることは認知症の予防にどんな効果をもたらすのでしょうか。また頭を使わないことで若者にも起こる「デジタル認知症」の危険性とは。
◆固いアタマもやわらかくなる
はじめは、勉強しても何も頭に入らなかったという萩本さん。
「脳が4か月くらい抵抗しました。『今さら覚えない』って。でもね、しつこくやってたら、脳が『わかった。お前がそうするなら付き合うよ』と答えてくれたような気がしました」
人間の脳は、幼い頃からの急速な発育・発達をへて、成人までにひとたび完成しますが、それ以降も、外からの刺激や環境によって、さらなる変化や成長をすることができることが分かっています。
脳には「可塑性」と呼ばれる性質があり、一度固くなったアタマも、やり方次第でまた子どものようにやわらかくなるのです。
また、年を取ると脳の機能は低下し、記憶力は悪くなると思われがちですが、最近の研究で「年齢を重ねても、記憶力は低下しない」ことが分かってきています。
オランダで115歳で亡くなった女性の脳を解剖したところ、脳の機能がほとんど老化していないことが判明。脳の寿命は120年くらいと考えられるようになりました。
高齢になると増える脳梗塞も、脳そのものではなく、血管が衰えることによって起こる病気です。
年を取ると物忘れをする回数が増えるように思いますが、実際には、度忘れの回数は大人も子どももさほど変わりません。
大人は忘れることを「老化」と捉えて深刻になってしまう一方、子どもは思い出せなくても特に気にしていないだけなのです。
◆97歳の大学院生も
世界には、萩本さんもびっくりの高齢大学生もいます。
オーストラリアの元歯科医、アラン・スチュワートさんは、2012年に97歳にして大学院を卒業。
「頭を常に活発にしておくのが好きなんだ」と語るスチュワートさんは91歳のときにも大学を卒業していて、世界最高齢での学士号取得者としてギネス世界記録に登録されています。
萩本さんやスチュワートさんのように頭を使うことが、認知症予防に効果的と思われる研究データもあります。
例えば、カナダの大学などの研究チームは、認知症の患者を対象にした調査で、2か国語を自在に操る「バイリンガル」は、1か国語しか話さない人より認知症の発症が遅いことを発見しました。
また、1日30分程度の「読み書き」や「計算」などの簡単な学習によって、認知症の予防や改善をはかる「学習療法」は多くの高齢者施設などで取り入れられ、一定の成果が報告されています。
◆デジタル認知症の危険性
一方で、アタマを使わないことによって発症する新たな認知症も出てきています。
それが、「デジタル認知症」。
デジタル認知症とは、「デジタル機器を長時間使用することによって発症する、認知症に似た症状」のことで、進行すると本当に認知症になってしまうリスクが指摘されています。
パソコンやスマートフォンが発達した今、何か分からないことがあってもネットで検索すればすむため、自ら本を読んで調べたり、記憶したりする必要もなくなったことが原因とされます。
同時に、ネット上で脳の処理能力を超えるほどの膨大な情報を目にすることで、記憶や思考を放棄した結果、その機能が低下することや、他者とのコミュニケーションが減ることも影響していると考えられます。
こうした状況は未発達な脳であるほど影響を受けやすく、IT社会の韓国では、脳がバランスよく成長せず情緒不安定になったり、記憶力が極端に低下する若者もあらわれているといいます。
そんなデジタル認知症になってしまうのを予防するには、 意識的にスマホやネットから離れる時間をつくること。
欽ちゃんのように記憶や読書を必要とする学習や遊びを積極的に行ったり、リアルな空間で他者と触れ合い、コミュニケーション能力を磨くことが効果的と考えられます。
74歳の大学生に負けないよう、普段から自分のアタマをあまり甘やかさないようにしたいですね。
<参考>
ロート製薬
KUMON
<監修>
岡本良平(医学博士 東京医科歯科大学名誉教授)