“若者のバイク離れ”で逆に盛況!?レンタルバイク

オートバイの新車購入者の平均年齢は51歳! ――。日本自動車工業会(自工会)が2013年のデータを元に公表したこの統計値が、国内自動二輪車市場の 停滞をまざまざと印象づけた。1980年代のバイクブームを経験した世代が主要購買層という構図が、30年後にもそのままシフトしただけということになる からだ。

現に、二輪車の国内販売台数は右肩下がりだ。1985年には45万台(50cc原付一種を除く)を超えていたものが、2010年には15万台を割り込 み、最盛期の3分の1にまでしぼんでしまった(自工会調べ)。内訳を見てみると、125cc未満の原付二種(スクーターが大半を占める)がさほど減ってい ないのに対して、ギアの変速操作の必要なスポーツバイクが中心となるそれ以上の排気量のクラスになると、約32万台→約5万2000台と、85年比で約 84%減というありさまだ。

しかしいま、本格的なオートバイに乗っているのは、ほんとうにオジサンばかりなのだろうか? 前述の自工会のデータはあくまで新車が対象で、中古車購入 者は含まれないという問題がまずある。そしてもうひとつ、無視できないのは、レンタルという新しいバイクライフのあり方が広がりつつあることだ。

「レンタル819」は、埼玉県川口市のキズキレンタルサービスが全国でフランチャイズ展開するレンタルバイク・チェーンだ。同社が2015年1月~7月の 顧客データを集計して発表したレンタル利用者の実像は、多くの点で我々の先入観を覆すものだった。まず、同チェーンのレンタル利用者の平均年齢は37歳 だった。前述の自工会発表の新車購入者より、14歳も若かったのだ。

レンタル819利用者の年代別構成比は、次のグラフにあるとおりだ。5歳刻みで切り分けられたパイ状のこのグラフで一目瞭然なのは、若年層に属するピースの大きさだ。

25歳までが全体の15%、30歳までが17%、35歳までが14%とトップ3を独占し、40歳までの13%を加えればじつに全体の6割弱になる。バイク離れが叫ばれて久しい30代以下のライダーが、現実には過半数を占めていたのだ。

ではなぜレンタルではこれほど若年層が多いのか? 真っ先に想像が浮かぶのは、バイクが買えないからレンタルで我慢するという事情だが、どうやらそうで はないらしい。同社が1都3県のユーザーを対象に別途行った調査によれば、「購入しなくても手軽に借りられるので」が21%だったのに対して、「いろいろ なオートバイに乗ってみたくて」が35%とトップを占めているからだ。

気になって、キズキレンタルサービスに取材してみた。同社広報部の花澤洋輔氏によれば、おそらく最大の理由はファイナンシャルリテラシーの向上だとい う。「ライフスタイルの変化、と言い換えてもよいかもしれません。スキーやスノーボードのレンタルは昔からありましたが、今やブランドバッグもレンタルで きる時代です。モノの所有をステータスと考えるのではなく、使うときだけ借りればよい。そういう意識が広がった結果ではないでしょうか」(花澤氏)

言われてみればもっともな話だ。“いつかはクラウン”という言葉がかつてはあったが、今の若者はモノを持つことをカッコいいとは考えない。ほとんど乗ら ないバイクを車庫で眠らせておくなら、維持費と整備の手間のほうが重くのしかかってくる。とくに、キャブレター式の20世紀のバイクに乗り続けるなら、エ ンジンがすぐにかかる状態を保つための労力はバカにならない。

昔と違って、今は携帯電話の月々の料金もかかるし、娯楽も多様化し、バイクが好きでもそればかりに時間と金を費やす時代ではなくなった。そしてもちろ ん、オヤジ世代と比較して若者たちの収入が低迷している事情もある。そんなこんなで、レンタルの過半を若者が占めることになっているのだ。

● 「飽きたから辞める」はわずか3% 月額定額制の意外な退会理由

レンタル利用のメリットのひとつは、先の調査結果にもあったように、いろいろなバイクに乗ることができることだ。そしてそこには、国内二輪市場の低迷を打破する可能性も眠っている。

レンタル819は、月額定額制の「マイガレ倶楽部」というサービスも展開している。月3回(年間24回)までの通常コースと、月2回(年間10回)まで のLightコースがあり、前者の大型免許向けのプラチナコースでも月額9800円、後者の平日限定・普通免許コースなら月額3500円で利用できる(た だしどのコースでも入会金1万2000円が必要)。もしもの事態に備える車両補償も通常の半額かそれ以下になり、レンタルを頻繁に利用するなら間違いなく お得だ。

この「マイガレ倶楽部」の退会理由調査も面白い。こちらも真っ先に予想されるのは、乗りたいバイクにはあらかた乗ったから月額会員はもうやめるというも のだが、それに当たる回答はわずか3%しかなく、34%と最大多数を占めた回答は、バイクを購入したからというものだった。

つまり、レンタルで乗るうちにバイクが欲しくなって購入に至る人がそれだけ多いということなのだ。「マイガレ倶楽部でいろいろなマシンを試すうちに、お 気に入りのバイクができてきて、それで購入に至る方が多いようです。レンタル車両が気に入って、わざわざそのマシンを買われる方もいるくらいです」(花澤 氏)

ここで興味深いのは、最初から購入検討の試乗目的で入会する人が多いわけではないことだ。最初から車種が絞り込めていれば、ライバル車種と乗り比べるために合わせて数回借りれば充分で、わざわざ月額会員になる必要はない。

レンタルでいろいろなバイクに乗るうちに、ある車種に惚れ込んで購入に至る――。ある意味、これほど賢い買い物のしかたもないかもしれない。クルマやバ イクは高い買い物だ。そして人間の感覚はきわめて繊細だ。アクセルへのレスポンスやブレーキのタッチひとつにも、好き嫌いが大きく分かれる。どのマシンが 自分の好みに合うのかは、カタログデータではわからない。乗らずに買ってから後悔しても、それこそ後の祭りだ。

そのように、レンタルは販売促進という観点でも大きな潜在力を秘めている。バイクレンタルは四輪車と比べてはるかに市場規模が狭く、多様な車両の確保に も困難が少なくないが、レンタル819が実施しているように二輪車メーカーの販促もかねてタイアップで車両を提供してもらうという流れがもっと広まっても よさそうだ。

地方では生活に欠かせない四輪車とは違って、バイクは趣味性の高い乗り物だけに、大型免許はあっても現実に所有できるのは通勤兼用の125ccスクー ターがせいぜいというライダーも少なくないかもしれない。けれども、目を転じればレンタルという手がある。大型にはレンタルでたまに乗るという楽しみ方が あってもいいし、そんなバイクライフの提案もまた市場拡大につながりうる。

道楽のオープンカーを夢見る人も多いが、オートバイの解放感はそれをさらに上回るものだ。寒い時期に山道のトンネルに入ればとたんに全身を温もりに包まれるし、海辺の潮のにおいも、雨の降りはじめの砂埃のにおいも、余さず鼻孔にとどいてくる。

ターマック(舗装路)からグラベル(砂利道)まで、プレイグラウンドは幅広く、腕さえあればマシンのポテンシャルを活かす場所には事欠かない。そうして 1日思いきり走って帰宅し、ベッドに潜りこめば、体の芯から潮騒のごとくにエンジンの鼓動が寄せ返ってくる。マシンを操る楽しさと、鉄の馬との一体感。こ んな素晴らしい乗り物が世の中にあるということに気づかずに、四輪車だけに乗り続ける人生はあまりにももったいない。

レンタルなら、たとえば九州や北海道など旅行先で1日だけ乗ることもできる。手ぶらで行けて、まさしくスノボ感覚だ。そうした利用シーンも含めて、オートバイを所有していなくてもその魅力を手軽に味わえるレンタルという業態は、大きな可能性を秘めている。

(待兼音二郎/5時から作家塾(R))

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