「大企業に一般職で就職して、結婚して専業主婦になり、子供を2人産むことが夢です」
人材コンサルタントの常見陽平氏が教えている女子大の学生に将来の夢を聞くと、こんな答えが返ってくることが多い。社会学者の山田昌弘氏が教えている大学では、こんな風に呟く男子学生が何人もいる。
「早く年金がもらえる歳になりたい」
若い男性の非正規雇用が増えた分、専業主婦になれる女性は減った。今の学生が年金をもらえるのは何十年も先であり、しかもその時、年金制度はどうなっているかわからない。
「年金」や「専業主婦」が本来の意味の夢と言えるかどうかは別として、どちらも実現が難しい。それをわかった上であえて口にするのは、それだけ彼らが置かれている現実が厳しいからだ。
山田氏が解説する。
「今の若者が上の世代とはっきり変わったことは、自分の親以上の生活をしたいといった上昇志向が希薄になったことです。小泉改革によっても、民主党政権によっても、若者が置かれている厳しい状況は変わらなかった。変化を期待していただけに若者の無力感は強まり、“諦め”の心情が広がっているのです。今、若者の自殺やうつが増えているのもそのためではないでしょうか」
経済アナリストの森永卓郎氏によれば、2004年から2005年にかけてホリエモンこと堀江貴文氏が大阪近鉄バファローズ、ニッポン放送の買収問題で話題を呼んでいた頃、既存の体制に挑戦する彼に期待する若者は多かった。ところが結局、証券取引法違反で逮捕、起訴され、有罪判決が確定して収監された。
「このことが若者の心情に与えた影響は大きく、『若者の○○離れ』の究極である『若者の夢離れ』を決定づけたと思います」(森永氏)
そんな社会に活力があろうはずがない。前出・常見氏が提唱する。
「オヤジ世代が若者世代を嘆いても反感を買うだけですし、若者がオヤジに反抗しようとしても世代としての人数が少ないのでかなわない。日本が活力を取り戻すためには、世代間闘争ではなく世代間共闘が必要です」
まさに「若者の○○離れ」で始まった「ニッポン分裂」両者の溝を埋めるには、まずその格差と価値観の違いを明らかにし、埋め合うことが必要だ。
※SAPIO2012年9月19日号