若者のアルコール離れが逆風となり、売り上げで苦戦する居酒屋・ビアホール業態。この厳しい環境下で、英国パブをモデルにした「HUB」は、コア顧客と設定する20~30代前半の若い客層を順調に取り込んでいる。
HUBは新宿や渋谷など首都圏ターミナル駅近くの繁華街を中心に、全国で100店舗超を構える。既存店売上高は、前2017年2月期まで7期連続で前期超えだった。
■端境期だったはずの今年度
店頭のテレビモニターでスポーツ放映を常時流しているので、サッカーワールドカップや夏季オリンピックなど若者に人気の世界的なスポーツイベントが開催されれば、客数が大幅に増える。前期は2016年8月に開催されたリオデジャネイロオリンピックの効果があった。
ところが、今2018年2月期はこのような大きなスポーツイベントが少ない”端境期”にもかかわらず、2017年3~12月の累計既存店売上高は前年同期比でプラスを維持している。
スポーツイベントがなくてもHUBが若者客を呼び込むことができているのは、一般の居酒屋チェーンとは一線を画した独自のビジネスモデルが徐々に浸透してきているからだ。
居酒屋はいっとき低価格化を打ち出すチェーンもあったが、最近は集客が容易ではないこともあり、フードメニューを増やして客単価を上げようとしているケースが目立つ。業態によって異なるものの、おおむね客単価は2500円前後、ドリンクとフードの売上高比率(%)は40対60というチェーンが多い。
これに対し、HUBは低価格のドリンクメニューを武器に、集客重視の戦略を貫く。客単価は年々下がっており、目下1500円前後にすぎない。ドリンクとフードの売上高比率は80対20と、圧倒的にドリンクのほうが高い。
実際にHUBの店頭に足を運ぶと、ドリンクメニューの豊富さに気づく。アルコール度数の高い商品から低い商品まで、実に80品目ものドリンクメニューがそろっている。かつ、ジントニック、ウイスキー、ワインなどそれぞれの種類で、390円(税込み)の低価格商品が並ぶ。
一方で、フードメニューについては軽食が中心で、充実しているとはいいがたい。「フードでは勝負しない。あえて捨てている」と、HUBの運営会社・ハブのIR(投資家向け広報)担当者は話す。「料理に傾注すると、それではただの洋風居酒屋で、パブの特徴がなくなってしまう」という。
HUBはキャッシュオンデリバリー(注文ごとに代金を払う)を採用していることもあり、お通しなどはない。顧客は390円払って1杯だけ飲んで帰ることも可能だ。多くの仲間と飲みに行っても、それぞれが都度払いするので、「割り勘負け」する懸念もない。
■ジャックダニエルの売り上げ日本一
混雑する時間帯は午後9時~午前0時ごろで、2次会や会社帰りなどに利用するケースが多いようだ。客の滞在時間は短く、「1時間ぐらいで帰るお客さんが少なくない」(千葉県の店舗に勤める女性店員)。豊富なドリンクメニューが低価格で楽しめ、気軽に立ち寄れる。つまるところ、HUBは若者客の「ちょい飲み需要」を巧みにとらえているというわけだ。
HUBのようにパブを本格的にチェーン展開する会社は、なかなか見当たらない。平均45~50坪ぐらいの小さな店構えなのだが、独特の豪華な内装にするために投資負担が1店舗当たり7000万~8000万円と、一般的な居酒屋の倍近くかかる。費用を回収するのには5~6年を要することもあり、「他社はあえて、この業態に参入してこない」と、ハブのIR担当者は説明する。
唯一の全国チェーンということもあり、ドリンクの販売量はずば抜けている。「ジャックダニエルを日本でいちばん売っている」(ハブの太田剛社長)。ジントニックやギネスビールの販売量もトップクラスだ。
こういった大量販売によるメリットは大きい。飲料メーカーから販売奨励金やキャンペーン協賛金が得られる。そのほか、店内装飾用のグッズや顧客にプレゼントするノベルティも飲料メーカーから提供されるので、HUBは「ラムカクテル・キャンペーン」など店内イベントを随時展開できる。
大量販売をバックボーンに、独自商品の開発も積極化できる。太田社長は「飲料メーカーからHUBオリジナルメニューの開発提案がある」と語る。現在、サントリーが全国で販売している「トニックウォーター」は、HUBのレシピをサントリーに提案し、そしてHUBが監修して商品改良させたものだ。
順調な集客と大量販売に連動して、ハブの業績は好調だ。今2018年2月期は売上高が111.9億円(前期比9.5%増)、純利益が5.1億円(同2.7%増)になると見込む。純利益は前期に続いて、連続で過去最高を更新する見通しだ。
■創業者が掲げた方針
大量出店をテコにした成長戦略を描くことが多い居酒屋チェーンに対し、ハブは年間10店前後の着実な出店に徹している。スクラップ&ビルドが少ないので、関連費用に苦しむことがない。また、ドリンクの売上高に占めるカクテルの比率が40%超と高い。好採算のカクテルの販売数量増は利益の押し上げ要因となる。
ここ数年は業績好調を維持するハブだが、これまで順風満帆だったわけではない。ハブの創業者はダイエーの創業者でもある中内㓛氏だ。1980年にHUB1号店を神戸・三宮に出店し、その後も複数店を開業したが、業績が伸びず1986年に事業を清算。六本木店や渋谷店など黒字店舗のみ残して事業を続けた。
中内氏の方針は明確だった。「HUBを居酒屋にしてはいけない」「週刊誌を買うようなリーズナブルな価格で提供する」。目下、HUBは独自路線をひた走るが、それは「中内氏が唱えた方針を愚直に守っている」からと、IR担当者は強調する。
最近の「ちょい飲み需要」が、創業者が見据えていた飲食スタイルとようやく合ってきた印象があるとはいえ、今後も継続して成長するためには課題がある。ハブの自社調査によると、ブランド認知度は首都圏でも50%程度。外食業界の人手不足を背景に、アルバイトの採用が難航することもある。
折しも、2017年12月に東京証券取引所第1部に上場した(それまでは東証第2部)。1部上場を機に、知名度向上策などを打ち出すことができるか。次の一手が問われる。