ガラスボトルに赤や紫の花材が入る華やかなインテリア-。実は、中には遺骨を砕いて加工したガラス玉が入っている。少子高齢化が進み、家族のありようも変わる今、「墓」の姿も変化している。近年、増えているという海洋散骨や樹木葬などの自然葬では、遺骨が遺族の手元に残らないため、さみしさを感じる人もいる。遺族が手元で供養できる新たな墓の需要が増加している。
一般社団法人「日本葬送倫理協会」(福岡市西区)は2017年から、遺骨約300体を博多湾に散骨した。ただ、故人が希望しても、遺族の中には「墓がなく、初盆のお参りをどうするのか」「墓も遺骨もなく、故人と会えずさみしい」などと戸惑う声もあった。
協会は昨年夏、ハーバリウム(植物標本)に似た新たな墓を制作する「美霊珠(みれいじゅ)プロジェクト」を始めた。火葬後、遺骨の一部を滅菌処理し、ガラス玉に入れて加工。色鮮やかなプリザーブドフラワーやドライフラワー、特別な液体とともにガラスボトル(高さ22センチ)に詰める。花材は6色から選べ、故人の好きな色を聞き取って制作する。
遺骨は、火葬後も有害物質六価クロムが排出されるため、特殊な対策を施す。手入れも必要なく、安全に数十年間保管できるという。1本3万9800円(税込み)で、毎月40~50本を制作している。
同区の柴田勝登さん(65)は昨年6月に同居していた母=享年(91)=を亡くした。仏花代わりにもなると2本注文し、仏壇に飾っている。「母がそばにいる気がして心強い。守ってもらっているんだと思う」と語る。
協会スタッフの坂本眞奈美さん(58)は「故人を身近に感じ、ご遺族に安らぎを与えられれば」と話す。(西村百合恵)
■増える散骨、規制の動きも
少子高齢化などを背景に増えているという自然葬は、節度を守れば違法ではない。一方で、統一ルールはなく、イメージ低下などを理由に規制する自治体もある。福岡県消費生活センターには「契約した業者と連絡が取れない」などの相談も寄せられている。
1991年に国内で初めて海洋散骨を行ったNPO法人「葬送の自由をすすめる会」の友延明夫九州支部長(75)によると、近年関東を中心に自然葬を希望する人が増加。生涯未婚率が上昇するなど家族のかたちが多様化し、「墓を管理する親族がいない」「遺骨を納める墓がない」との事情があるという。「地元の墓に『入りたくない』『入れない』という地方出身者もいる」(友延さん)。
法務省によると、海洋散骨の規定はなく「節度をもって行われる限り(刑法の)遺骨遺棄罪に当たらない」。業者数や実施件数の統計もない。一般社団法人「日本海洋散骨協会」(東京)は2014年にガイドラインを決定したが、トラブルも起きている。
北海道長沼町では、札幌市の団体が樹木葬用の森林公園を整備し、住民らが反発。町は05年、国内で初めて樹木葬を念頭に条例で散骨を禁止した。
海洋散骨では、静岡県熱海市が15年にガイドラインを制定した。首都圏から訪れて海洋散骨する人が増え、経済界などから「熱海のイメージが損なわれる」との声が上がったからだ。夏季の散骨を禁止し、陸から10キロ以上離れた海洋で散骨することを定めた。
福岡県では複数業者が博多湾などで散骨をしているが、金額は1万~30万円と幅がある。県消費生活センターには、18、19年に海洋散骨と樹木葬について計24件の相談があり「業者が信用できるのか」との問い合わせが大半だったという。
友延さんは「業者は慎重に選ぶこと。故人が散骨を希望しても遺族が嫌がるケースもある。生前から『終活』でよく話し合ってほしい」と話す。