【病気を近づけない体のメンテナンス】歯(下)
虫歯は、口の中にいる細菌(ミュータンス菌)が食べカスをエサにして酸をつくり出し、歯を溶かして発症する。しかし、もうひとつ別の発症の仕方がある。歯を外から見た限りでは健康そのものだが、レントゲン写真を撮ってみると、内部が溶けて、場合によっては神経に達しているような症例だ。
その発症メカニズムを解明した米国ロマ・リンダ大学のラルフ・スタインマン博士は、歯を内部から溶かす虫歯の原因として、「象牙質の液体移送システム(DFT)」が大きく関係していると述べている。DFTを簡単に説明すると、脳からの指令によって体内に流れている物質が歯の歯髄(神経)を通り、やがて歯の外に流れ出る現象のこと。さらにDFTは「逆流」もする。つまり、口内に存在する無数の細菌が歯の表面を溶かすことなく侵入し、歯の内部で虫歯をつくるのだ。
そのDFTが逆流する原因のひとつに、「血糖値スパイク(血糖値の急激な変動)」がある。では、どんな食生活をしていると起こりやすいのか。「100年歯がなくならない生き方」(三笠書房)の著者で、小峰歯科医院(埼玉県比企郡)の小峰一雄院長が言う。
「血糖値スパイクを招く原因は、『早食い』と『炭水化物』です。約40年間で3万人以上の患者さんを診てきましたが、虫歯の患者さんの多くはラーメンや丼ものが好物です。どちらも炭水化物の塊のような食べ物で、なおかつ時間のとれないお昼に、かき込むようにして食べる。ブドウ糖が急激に流れ込みますから、当然、血糖値は急上昇します」
たとえ忙しい毎日であっても、食事のときは少し心を落ち着けて「ゆっくり食べる」ことが虫歯予防につながるのだ。虫歯になりやすい人には、もうひとつ特徴がある。「食べる回数」が多いという。朝昼晩と3食の食事が推奨されているが、3時のおやつや寝る前の夜食なども含めて「1日5食」という人も少なくないはずだ。
まず人類は、そもそも1日1食だったという。食べたり飲んだりするのに適している時間は、正午から夜8時までの間。食事はこの時間帯に1回だけ取るのが、ヒトという生き物の自然な姿だったという。それが近代になり、物質的に豊かになると食事回数がどんどん増え、血糖値スパイクも頻繁に起こり、虫歯も増えているというわけだ。
とくに夜遅く食事をするのはよくない。経験上、夜8時以降に食事をしている人は、歯が折れたり、ヒビが入っている人が多くいるという。
「夜8時以降に食事をすると、夜中、寝ているときに低血糖を起こします。すると体内では血糖値を上げる作用のあるアドレナリンというホルモンが分泌されます。アドレナリンは『闘争のホルモン』なので、体にギュッと力が入ります。それで歯をくいしばるため、歯が折れたり、ヒビが入ったりするのです」
小峰院長は、基本的に1日1食の食生活を心掛けているという。朝は消化管を休める時間なので、体を温める作用がある温かい紅茶を飲むだけ。どうしてもお腹がすいているときだけ、新鮮なフルーツを2~3切れ食べる。
昼は本来、食事をするにはふさわしいゴールデンタイムだが、食事をすると午後から眠くなるので、できるだけ食べないようにしている。食べるとしたら好物のソバをつまむ程度という。ソバは食後の血糖値の上昇度を示す値の「GI値」が比較的低い食品なので、血糖値スパイクが起きにくく、眠くならないのだ。代表的な食品のGI値は次のようなものだ。
■GI値の高いもの
◆ご飯(白米)◆食パン◆うどん◆ジャガイモ◆砂糖
■GI値の低いもの
◆玄米◆全粒粉パン◆ソバ◆レタス◆リンゴ
残る夕食だけは、炭水化物は控え、魚や野菜を中心に好きなものを食べているという。1日1食のコツは頑張りすぎないこと。ただし、腹八分目に抑えること、夜8時以降はできるだけ飲み食いしないことを守ることが大切になる。
「さらに私は、毎週月曜に『プチ断食』も行っています。一般的に知られる断食の効果は次のようなことですが、私としては、ここに『虫歯がよくなる』『歯周病の予防になる』といった効果も入れたいところです」
■断食の効果
①内臓が休まる②体重が減る③毒物、老廃物の排出④腸内環境の改善⑤免疫力、自然治療力の向上
週に1日だけでも十分、効果は期待できる。無理せず実践してみよう。