「絶対にもうかる」「月利4%」-。そんなうたい文句で架空のもうけ話を持ち掛けたとして、投資コンサルティング会社「フリッチクエスト」(東京都新宿区)の社長、森野広太容疑者(38)や元社員ら男女8人が警視庁に詐欺容疑で逮捕された。3千人以上の若者らに借金を負わせるなどして集めた計200億円は無人島やクルーズ船、高級外車などの原資に消え、その多くが返金されていない。勧誘の構図は「ABC」。マルチ商法の常套(じょうとう)手段だった。
噓の結婚式で借金
「配当ですぐに返済できるから大丈夫」
令和2年4月、フリッチ社に約600万円を出資した中部地方の女性看護師(26)は、元幹部の男(48)からの説明で、借金することを決めた。
銀行3行、消費者金融4社から計600万円を借り、全てをフリッチ社に投資した。融資名目は結婚式。「予算400(万)~600万円」「教会式」「スナップ写真はデータで300カット」-。引き出物や引き菓子も、詳しく決めていた。
「銀行で『結婚式のためにお金が必要』と言うと、融資を受けやすい」と指南されるがまま、噓の結婚式の計画をもって臨んだ。銀行は消費者金融と比べて審査が厳しく、結婚式の計画は具体的にしなければならないとの説明も受けた。
配当は、毎月26日に開く「おもてなし会」と呼ぶ会合で、出資者に現金で手渡していた。豪華なパーティー会場を貸し切ったり、お笑い芸人を招待したりと、羽振りの良さをアピール。ただ、会合のほとんどが都内開催だったため、女性は2~3カ月に一度、名古屋に訪ねてきた社員から現金で受け取っていた。
突然の配当ストップ
投資は順調に見えたが、4年1月、突然崩壊した。この月のおもてなし会直前、中止の連絡が入った。2月に開かれたウェブ説明会では「捜査当局の介入があり、配当は当分出せない」と説明。出資者が返金を求めても、「会社にあった金は、全て押収された」というばかりだった。女性はようやく、だまされたと気づいたという。
「噓をついて、お金を借りなきゃいけないなんて、おかしいですよね。なんでここで気づけなかったかな」。かつて立てた結婚式の計画のメモを前に、肩を落とした。
警視庁によると、フリッチ社は、約3300人から計約200億円を集めた。出資者の3分の2が20~30代の若者だった。1人当たりの平均出資額は約700万円になるが、若者からこれだけの大金を集められたのは、ほとんどに借金をさせていたからだった。
フリッチ社は、ネットワークビジネス(マルチ商法)でよく使われる「ABC」という手法を使い、若者らを勧誘。同社幹部が「アドバイザー」(A)と呼ばれる役割で、出資者である「クライアント」(C)と最終的な契約を結ぶ。Cを勧誘し、その2人をつなげるのが「ブリッジ」(B)の存在だ。
契約内容は、投資業務を委託しているアフリカの資産運用会社に出資金を預けて運用するというもの。フリッチ社が受け取るコンサル料を除き、出資金の3割は為替などで運用し、残る7割は国債といった安全な金融商品に投資。元本の7割を保証し、月利4%で配当が出せるとうたっていた。
2240円の返金
警視庁によると、投資業務の委託先とする会社はペーパーカンパニーだった。出資金のうち2億円程度は、暗号資産への投資や海外カジノにつぎ込まれていたが、出資者に説明していたような投資はしていなかった。集めた金の半分近い約90億円は「配当」として出資者にそのまま戻す自転車操業を続け、無人島やクルーズ船の購入費などにも充てていた。
4年春ごろ、フリッチ社は、出資者に対し「月1回、20年間の分割で元本保証分を返金する」とする「再契約」を持ちかけた。中部地方の女性看護師も契約したが、返金があったのは1回のみで、たったの2240円。女性は「逃げるつもりだろう。返金はあきらめている」と話す。
配当停止を伝えるウェブ説明会の画面には、他の出資者の不安そうな顔が並んでいた。幼い子供が映りこむこともあった。女性は当時を思い出し、怒りを込めて訴えた。
「被害者の中には、家族を支えている人もいる。みんなの生活をどう考えているのか。悪いと思っているなら、きちんと償ってほしい」(橘川玲奈)