衝撃!〈韓国〉や〈中国〉よりも大幅に劣る「日本住宅の断熱性能」

知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは「断熱・気密性能」。家を新築される9割以上が日本の住宅性能は優れていると思われているようですが、実際のところ、住宅の基本性能である「断熱・気密性能」に関して、日本は先進各国のなかで大幅に劣っている状況にあるのです。詳しく解説していきます。 ▼【ランキング】市区町村「家の広さ」ベスト100位

「日本の住宅性能は優れている」という勘違い

筆者の肌感覚としては、家を新築される人の9割以上の人は日本の住宅性能は優れていると思っているようです。残念なことに事実はこの逆で、一般的に建てられている日本の住宅の基本性能、特に断熱・気密性能は、先進国で大幅に劣っている状況にあります。欧米はおろか、今や韓国や中国よりも劣っています。 しかし、ほとんどの日本人は、日本の住宅はむしろ先進国でも性能が優れていると思っているようです。特に、マンションではなく戸建住宅にするのならば、日本で普通に家を建てるということは他の国では考えられない低性能になってしまうということを認識した上で住まいづくりをするのかどうかは、後々の満足度に大きな差が出ます。 ではなぜ、断熱性能を向上させると、住まいに対する満足度が上がるのでしょうか?

中国・韓国にもはるかに劣る断熱基準

【図表1】

さて、欧米はおろか、中国・韓国よりも性能が劣っているといわれて、「まさか!」と思う人も多いと思います。残念ながら事実です。 【図表1】は、住宅の断熱性能の指標である外皮平均熱貫流率(UA値)の基準の国際比較です。縦軸は、各国は住宅の断熱性能の基準を示しています。値が小さいほど高断熱であることを意味します。 横軸の暖房デグリーデーというのは、地域の寒さを表す指標です。暖房に必要な熱量で、冬の寒さがだいたい同じ気候の地域ごとに括っているものです。 6地域(東京)とあるのは、日本の省エネ地域区分における東京・横浜・名古屋・大阪・福岡などの人口が集中する温暖な地域です。6地域の日本の省エネ基準は、0.87[W/m2・K]です。それに対して、同じ気候区分では、韓国は0.54、スペインは0.51、米国カルフォルニア州は0.42、イタリアは0.40です。日本の0.87という基準が、圧倒的に緩いことがわかると思います。 しかも他の国々は、新築時にこの断熱性能への適合が義務化されています。一方日本では、現時点では新築住宅にこの基準への適合は義務づけられていません。やっと、建築物省エネ法の改正により、2025年4月から義務化されますが、高断熱化への取り組みは、いわば周回遅れの状況です。 また、住宅の断熱性能においては、窓の性能が非常に重要です。ですが、日本の窓の断熱性能の基準も、欧米や中国に比べて圧倒的に劣っています。日本で☆4つの最高等級の評価が得られる断熱サッシは、他国では性能が低すぎて違法になってしまいます(関連記事:『 今年の夏こそ涼しく過ごす…朗報!窓の断熱改修の大型補助金「先進的窓リノベ2024事業」募集開始 』)。 つまり日本で普通に家を建てるということは、他の国では考えられない低性能な家になってしまうということなのです。

既存住宅はさらに低断熱な現状

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【図表2】

上記は、我が国の新築住宅の断熱性能に係る基準についてです。既存住宅は、さらに「お寒い」状況です。 国土交通省の資料によれば、2019年度の既存住宅のうち、現行基準(6地域:UA値0.87)を満たしているのは、わずかに13%です。多少断熱されているレベルの平成4年基準と昭和55年基準の合計は58%、ほぼ無断熱の住宅は29%にも上ります(図表2)。 さらに、断熱性能を決めるもっとも重要な要素である窓の断熱化については、すべて1枚ガラスの住宅が68%にも上っています(図表3)。 1枚ガラスのサッシは、多くはアルミサッシだと思われます。アルミは樹脂の約1,400倍もの熱を通します。そのため、アルミサッシの1枚ガラスの家では、どうしても冬には結露が生じますし、暖房しても冷気が降りてきて足元が寒くなります。冬暖かく、夏涼しい快適な暮らしの実現は困難です。 ちなみに日本以外の国々では、アルミサッシはほとんど使われていません。

住宅の断熱性能はなぜ大切なのか?

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衝撃!〈韓国〉や〈中国〉よりも大幅に劣る「日本住宅の断熱性能」

ではなぜ、住宅の断熱性能が重要なのでしょうか? 住宅の断熱性能は、暮らしの質という観点からあらゆる面に影響を及ぼします。 まず健康面ですが、高齢者にとっては、ヒートショックのリスクが高まります。ヒートショックとは、家のなかの室温差に起因して、脳や心臓に負担がかかることを指します。特に多いのが冬の入浴時です。冬の入浴時の死亡者数は、消費者庁によると19,000人/年とされています。これは年間の交通事故死者数の7倍以上に上ります(関連記事:『 日本の家「寒すぎる脱衣所」…年間“約1.9万人”が亡くなる深刻 』)。 また、断熱改修を行うと、血圧が下がることも、国土交通省の支援により平成26年から行われた「断熱改修等による居住者の健康への影響調査」の調査結果の中間報告(平成31年)で公表されています(関連記事:『 血圧もコレストロール値も上昇…命を縮める「日本の寒すぎる家」恐ろしい実態 』)。 さらに、喘息やアレルギーとの関係も明らかになっています。新築戸建て住宅への転居を経験した24,000人を対象とした、転居前後の体調変化を聞くアンケート調査によると、手足の冷え、目やのどの痛み、気管支炎、花粉症、アトピー性皮膚炎など、尋ねたすべての症状に対して、転居後の断熱性能が高いほど、転居前に症状が出ていた人のなかで出なくなった人の割合が高くなるという結果が出ています(図表4)。 つまり、住宅の高断熱化には居住者のアレルギー、喘息等の症状に対して健康改善効果があることが明らかになっているのです。高断熱化すると、なぜ、これらの症状が改善されるのかは医学的には明らかにされていませんが、一般的には結露との関係といわれています。 結露が起きると、どうしてもそこにカビが発生します。カビはダニの餌になるため、結露が生じる家は、アレルゲンとなるカビ・ダニが生じやすいのです。十分に高断熱化すると、結露が生じにくくなるため、家のなかからアレルゲンが減るのです(図表5)。

高断熱住宅の暮らしはとにかく快適!

高断熱住宅の暮らしは、とにかく快適です。個人的には、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が劇的に向上するといっても過言ではないと思っています。 暮らしが快適になるのは、さまざまな要因があり、簡潔に説明するのは難しいのですが、まずは、冬に家中が暖かいということが大きいと思います。暖房を切って寝ていても、起床の際にそれほど室温が下がっていないので、ベッドから抜け出すのに勇気は必要なく、すっと起き出すことができます。 また暖房時に冷気が足元に落ちてくる現象(コールドドラフト)が起こらないため、足元が寒くなく、床暖房などなくても快適に過ごせます。 さらに、室内側の壁が外気の影響で熱くなったり、冷たくなったりしないので、輻射熱の影響があまりありません。 人の体感温度は、温度計で測る室温と壁の温度の平均値といわれています。高断熱住宅は、室内側の壁の温度が室温と変わらないため、冷房も暖房も穏やかな温度設定で快適に過ごせます。そのため、冷暖房時も体に優しく、快適に過ごせるのです(関連記事:『 高気密・高断熱の暮らしは、人生の質(QOL)を激変させる!? 』)。

断熱性能を高めたほうが経済的に得

【図表6】

そして、断熱性能を高めたほうが経済的にも得をします。 日本では、不思議なことにクルマ選びの際には燃費性能を重視しますが、住宅については燃費性能という概念がほとんどないようです。多くの消費者は、建築費や分譲価格を重視し、冷暖房光熱費や維持コストをあまり意識せずに、住まいづくりをしています。 欧米では、住宅選びでも燃費性能を重視する傾向が強いのに対して対照的です。断熱性能を高めると、当然、建築費は増えます。住宅ローンの支払額もそれに伴い増えます。ですが、一般的には高断熱化に伴う冷暖房光熱費の削減額はそれを上回ります。 北九州市は、独自に「北九州市健康省エネ住宅」という独自制度を定めており、UA値0.38というかなりの高断熱仕様を推奨値としています。そして、北九州市は、省エネ基準(等級4:UA値0.87)に比べて、図のように、毎月の支払額は、推奨値の高断熱仕様のほうが月平均で90,200-82,900=7,300円/月も得すると試算しています(図表6)。

目指すべき断熱性能は?

【図表7】

では、どの程度の断熱性能を目指すべきなのでしょうか?  建築物省エネ法では、「断熱等性能等級」が定められています。断熱等級4が2025年4月から新築では義務化される省エネ基準、そして遅くても2030年までには、断熱等級5に義務基準が引き上げられることになっています。 そのため、これから家を新築もしくは購入するのであれば、最低でも断熱等級5は確保しておかないと、6年後には最低基準を満たさなくなります。専門家の間では、断熱等級6が高断熱と呼べる最低レベルといわれています。 このレベルは、エアコン1台で家じゅうを快適な室温に維持することができ、また全館冷暖房にしても増エネにならない水準といわれています。このレベルは確保することをお勧めします(図表7)。

断熱性能で資産価値が評価される時代が来る!

【図表8】

欧米と異なり、現時点の日本の住宅マーケットでは、断熱性能で分譲価格や賃貸住宅の家賃が変わってくることはほとんどありません。それは、消費者に、高断熱住宅のメリットの理解があまり進んでいないからだと思われます。 そのため、国は2024年4月から省エネ性能ラベルという制度を始めました。これは、分譲住宅・中古住宅・賃貸住宅において、住宅のエネルギー消費量と断熱性能を表示させるものです。そして、SUUMO等の不動産ポータルサイトの物件情報でもこの表示が始まっています。この制度により、消費者の住宅の断熱性能に対する理解が進み、中古住宅として売却する際には、評価額に断熱性能が反映されるようになるものと思われます(図表8)。

既存住宅も断熱改修のチャンス!

ここまで読んで、現在の自宅が低断熱なので、残念な気持ちになった人も少なくないかと思います。そんな人に、断熱リノベーションのチャンスが到来しています。 上述の通り、窓の断熱性能はとても大切です。窓の断熱リノベだけでもかなり健康・快適で省エネの住宅に変わります。昨年度から、「先進的窓リノベ事業」というとても手厚い補助制度が始まっています。ぜひ、今のお住まいが、冬寒く、夏暑いのであれば、この制度を活用して、お得に断熱リノベすることをお勧めします(関連記事: 今年の夏こそ涼しく過ごす…朗報!窓の断熱改修の大型補助金「先進的窓リノベ2024事業」募集開始 )。 そして、さらに本格的に断熱フルリノベをお考えならば、急ぐ必要があります。改正建築基準法の施行により、来年4月から既存住宅のフルリノベの手続きのハードルがすごく上がり、時間も費用もかかるようになります。3月中に着工できるように急ぐことをお勧めします(関連記事:『 2025年4月「建築基準法改正」は改悪か…「耐震・断熱・気密リノベができなくなる」の真相 』)。

高橋 彰

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