被災地で離婚相談急増 失業・環境激変…絆引き裂く

 東日本大震災以降、婚約・結婚指輪の売り上げが増えるなど家族の絆を求める動きが高まる一方で、宮城県内では離婚を相談する人が増えている。ある民間相談所では4月以降、被災者の離婚相談が震災前と比べ3倍に達した。被災による失業や住環境の変化が背景にあるようだ。
 宮城県沿岸部の40代の女性は9月から、20年来連れ添った40代の夫との離婚を弁護士に相談している。自宅は津波で全壊し、避難所や親類宅、仮設住宅を渡り歩く日々が続いた。震災直後、女性は高校3年生の娘とともに、避難所から被災を免れた親類宅への移動を決めたが、夫は「(女性の親類に)気を使うのが嫌だ」と、1人で車の中で寝泊まりすることを選んだ。仮設住宅が当たっても、6畳2間の狭さを敬遠し、夫だけは一軒家の民間住宅を支援してもらった。女性は、そんな中で被災した実家には足しげく顔を出す夫の姿に失望も感じた。
 「お互いの存在が息苦しくて離れた生活を選んだが、たまに会っても生活の不安や不満をぶつけ合うばかりになった」とため息をつく。
 夫の勤務する水産加工会社は水没し、生活の糧も失われた。女性によると、夫は役員だったため失業保険も下りないという。
 貯金を切り崩す毎日が続き、家の再建や会社が再開するまでの就職などの話し合いも、空回りするだけだった。「財産もすべてが流され、もう一度この人とやり直すかを考えたとき『もうだめだ』と思ったのです」
 宮城県内で離婚や夫婦関係修復などの相談やカウンセリングを行う「ライフサポート離婚相談所仙台」によると、夏を過ぎたころから離婚についての相談が増えた。相談内容は「震災で住む場所がなくなり、夫の親との同居を迫られている」といった生活環境の変化に端を発したものが多いという。
 仙台弁護士会が被災した女性を対象に5月と7月に実施した法律相談会では相談の約8割が離婚に関するものだった。離婚相談などを扱う「宮城家族問題相談所」の中幡時子代表(65)によると、4月下旬から離婚相談が増え始め、1カ月の相談件数は50件前後と、昨年の同時期と比べ3倍程度に増えているという。
 中幡代表は「震災前から夫婦関係に亀裂が入っていたケースが多い。その亀裂に震災後の変化による不満が注ぎ込み、関係破綻が決定的になったのでは」と分析している。(是永桂一)

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