東日本大震災の被災現場を復興応援や研修を目的に訪れる「被災地ツーリズム」が広がりを見せている。大手旅行会社は「東北応援」と銘打った旅行商品を相次いで打ち出し、「震災語り部」が案内する地元バス会社のツアーには申し込みが殺到している。関係者によると、「震災の爪痕を見詰め、自分にできる復興支援を考えたい」というニーズが背景にある。東北の観光関係者は「復興の起爆剤に」と期待を込める。
<首都圏が中心>
JTBグループは4月中旬、「岩手・宮城 三陸への旅」と題した被災地ツアーを売り出した。宮古市田老地区を視察し、三陸鉄道(宮古市)のうち一部区間で運行を再開した北リアス線に乗るプランと、宮城県南三陸町で語り部から震災体験を聞き、町内に泊まるプランがある。
JTB東北は「物見遊山の観光ではなく、震災の教訓を学ぶプロジェクト」と説明する。首都圏を中心に関心は高く「縮小傾向のボランティアツアーに代わる商品に成長する」とみる。
クラブツーリズム(東京)も気仙沼市の復興屋台村など仮設商店街で、地場産品の買い物を楽しむツアーを組む。シニア層や首都圏の東北出身者の参加が多い。
同社の旅行者アンケートによると、被災3県への訪問理由は「復興支援の思い」が8割。担当者は「潜在需要は大きい。受け入れ態勢が整えばさらに伸びる」と話す。
被災地の地元企業などが企画するツアーは、一段と人気が高い。
三陸鉄道は昨年5月、10人以上の団体向けに「被災地フロントライン研修」を始めた。社員のガイドが岩手沿岸部を案内して鉄道の傷跡も見る。利用はこれまで217件、約4700人に上る。
宮交観光サービス(仙台市)は、気仙沼市の景勝地・岩井崎で津波に耐えた竜のような形の「辰(たつ)の松」を訪ねるバスツアーを企画。現地ガイドから震災体験を聞けるのが評判で、出発1カ月前には満席になる人気ぶりだ。
同社は「重労働のボランティアはできないが何か役に立ちたい、という人は多い。被災地訪問で支援のきっかけが生まれればいい」と話す。
<「飲酒ご法度」>
宮古観光協会は今月、宮古市田老地区で被災した市民ガイドが被災地を案内する「防災ガイド」を始めた。29日は、関東や九州からツアー客15人が訪れた。
東京から参加した小西康一さん(45)は「実際に見て、やっと現実だと受け止めることができた。震災の教訓を肝に銘じて後世に伝えていかなければ」と話した。
ツアーで神経を使うのは、被災者感情への配慮という。「飲酒はご法度。写真撮影も慎重にとお願いしている」とJTB東北。トラブル回避のため、地元自治体や観光協会と綿密な打ち合わせが欠かせない。
津波被害と福島第1原発事故の風評被害で、東北観光は打撃を受けた。関係者は被災地ツーリズムに再生の光を見いだす。
新潟を含む東北7県の官民でつくる東北観光推進機構は「東北は不幸にして震災に遭ったが、他地域にない防災教育プログラムを持った。被災地に一度来れば心に残り、リピート率は高くなるはずだ。今後は教育旅行の誘致にもつなげたい」と話している。