要注意!社員を「リモート監視」する会社の末路 会社が何で成り立っているのか考えてみよう

新型コロナウイルスによって今もリモートワークを続けている企業は少なくありません。ただ、リモートが続く中で、従業員や部下がちゃんと仕事をしているのかわからない、という不安から監視を強化したいと考えている上司や経営者もいるかもしれません。今回は、人材開発支援会社、コーナーストーンオンデマンドのブログから、「監視の強化」がまねく弊害について紹介します。

急成長する「従業員の監視会社」

 先般、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された記事によると、新型コロナウイルスに起因して始まったリモートワークの世界において、少なくともある1つのビジネスが成長していると言われています。それは、企業が従業員の勤務状況を監視するツールを販売している会社です。

 従業員監視ソフトとユーザー行動分析を提供するアクティブトラックのCEOは、最近の問い合わせ件数が「ちょっと異常だ」と語りました。同業界のもう一つのベンダーであるテラマインドも、3月中旬以降、新規の問い合わせ件数は3倍に増え、社内の監視対象を増やしたいという既存のクライアントから寄せられる追加ライセンスに関する要望も大幅に増加したということです。

 新たにリモートワークに切り替えた従業員の生産性が落ちる可能性を考えると、企業が監視を強めようとすることは驚くべきことではありません。しかし、上司が部下のPC画面を確認したり、閲覧したサイトを追跡したり、メール(また、電話なども)を監視したり、PCに搭載されているカメラを使って従業員を監視したりといった、利用が急増しているテクノロジーを採用するかどうか検討する前に、以下に挙げる4つの重要な事実について考えてみる必要があります。

 1.組織が効果的に機能するために最も重要な要素は「信頼」

 アメリカのLCC大手ジェットブルー会長であるジョエル・ピーターソンの書籍『信頼の原則』が出版される前から、著名経営コンサルタントのスティーブン・コヴィーは、信頼とは「経済の原動力」であり、「信頼の高さは配当と同じであり、信頼の低さは税金と同じである」と述べています。

 この見解は、研究でも裏付けられています。88店舗の小売店を対象に行われた長期調査から、従業員が経営陣に信頼されていると感じている場合、その売り上げやカスタマーサービスのパフォーマンスは上がることが判明しました(職務に対する責任感を増すことが理由の1つです)。

 ところが、信頼は外部的な成功指標以外の部分にも実は影響しています。信頼は、組織の潤滑剤のような役割を果たします。信頼が高いほど摩擦が減り、人々は協力して、より効果的に働きます。また、従業員は不審な動機を持つ人に重要な知見を漏らしたくないと考えるため、信頼は協力や情報共有への意欲にも影響します。

 たとえば、リーダー育成などを手がけるトラスト・エッジ・リーダーシップ・インスティテュートの調査対象となった就業年齢にあるアメリカ人1202人のうち23%が、リーダーが信頼できれば、もっと多くのアイデアや解決策を提案すると回答しています。

従業員の監視は今に始まったことではない

 2. 監視は信頼を損なう

 従業員を厳しく監視する企業の行動は、従業員は監視しなければ仕事をしないという、会社の信頼のなさを示しています。ところが、電子的な手段による従業員の監視は、今に始まったことではありません。新型コロナウイルスやリモートワーク化が始まるよりもかなり以前から行われていたのです。ある調査によれば、14年前でさえ、企業の78%が従業員を監視しており、半数は電話をモニタリングしていました。

 これは、会社側が、監視や指示によって業務が円滑に回ると信じているからです。社会心理学者ロバート・チャルディーニや私は、これを「監視信仰」効果と呼んでいます。実際、監督者は、監視下で行われた仕事の成果は、指導なしで行われた仕事よりも優れていると認識する傾向があります。

 ところが実際には、監視によって、会社に対する従業員の信頼が損なわれます。社会心理学者ロイド・ストリックランドが60年以上前に実施した研究では、職場を模倣した環境で、被験者に2名の部下(実際には実験者が用意した部下役の人物)のうちランダムに選出した1名をより厳しく監視させました。

 次に被験者に厳しく監視する部下を選択させたところ、被験者は1回目と同じ人物を信頼の度合いが低いと考え選択しました(その人をすでに監視したという以外に、同じ人物を選ぶ理由はありません)。

 つねに上司が見張っていれば、従業員には自分が監視しなくても信頼に値すると証明する機会がないため、監視し続けると実際に信頼できる人物かどうかを試すことができないという矛盾があります。会社側がリスクを取り、従業員に作業を監視なしで任せるまで、その仕事ぶりは従業員自身の意欲や意識の結果ではなく、監視の結果と見なされることになります。

 3. 企業は細かな行動ではなく、結果を評価するべき

 業務の遂行に関する法律や適用される規制に準拠していれば、企業が従業員の就業状況を気にする必要はあるでしょうか。多くの研究が示すように、仕事に費やした時間は生産性に反比例していることが多いものです。学校の勉強や仕事の合間に休憩を取ることで、実際には集中力が上がります。

 企業は、物事を遂行させるために人を採用しているのだと思います。必ずしも、一定時間の労働や特定の行動をさせるためではないはずです。定常作業の自動化が増え、問題解決能力やクリティカルシンキングなどのソフトスキルの価値が大きく増している現在ではなおさらでしょう。

 ところが、現在でもマイクロマネジメントは一般的に行われています。仕事が本当に嫌いになってしまう原因です。従業員は大人としての考えを持っており、大部分において、大人として扱われたいと考えています。ゆえに監視が必要な小さな子どものように扱われたいとは思っていません。

従業員への信頼度が低い会社で働く弊害

 4. 監視はストレスや健康問題の原因

 コンピューターやソフトウェアベースで監視を行っている場合、仕事やスケジュール上の判断は、最終的に機械に委ねられます。「アルゴリズム管理」とも呼ばれる方法です。結果として、従業員は仕事で仲間からアドバイスや支援を求める自由がないか、ないと感じます。

 このような仕事の構造や業務管理の劣化に起因するストレスは、実際に短期的な体調不良や、長期的な健康状態の変化を招くおそれがあります。AT&Tの従業員700人以上を対象に行われた調査では、電子的に仕事をモニタリングされている従業員の方が、職場をストレスが多い環境と見なし、多くの心的緊張、不安、落ち込み、疲労、健康問題を報告していることが判明しました。

 また、一部の現場実験や調査を分析した結果、信頼度の低い企業で働く従業員と比較して、信頼度の高い企業で働く従業員は、ストレスが74%低く、職場での活力が106%高く、病欠が13%少なく、バーンアウトが40%少ないことが分かりました。

 自由という感覚を奪うことが、従業員の健康や活躍に非常に重大な影響を与えることに加え、厳しい監視は、上司に対する部下の信頼や部下に対する上司の信頼を損ねてしまいます。信頼の文化は、監視を増やすのではなく、減らすことにかかっています。

 新型コロナウイルスのパンデミックによって、従業員に対し、いずれにせよ前から行うべきであった事を実施する機会が得られました。それは、担当業務の管理はこれまで以上に従業員に委ねること、業務の構造を改善すること、そして従業員の責任を拡大することです。それはつまり、従業員を感情のある大人として信頼して扱うことでもあるのです。

タイトルとURLをコピーしました