9月5日、政府の食品安全委員会が、米国産牛肉などについて「30カ月以下に緩和しても現在の20カ月とリスクの差は小さい」として輸入規制緩和の方針を打ち出したが、これが業界内に物議を醸している。
畜産農家が「外国産に押されて値崩れが避けられない。死活問題に直結する」と悲鳴を上げたのをよそに、これまで“勝者なき消耗戦”と揶揄されるほど値下げ競争に明け暮れてきた牛丼業界は「月齢が高いから美味しさが増す。これからが本当の勝負」と、懲りもせずにエールを送る。
2001年にBSE(牛海綿状脳症)の感染牛が確認されて以来、政府は米国、カナダ産の輸入を禁止し、’05年には月齢20カ月以下に限定して輸入を再開した。冒頭の方針は、それに風穴を開ける大英断である。
「規制緩和で最も恩恵を受けるのは『吉野家』です。BSE問題が発生する前には、月齢が高くて脂の乗った米国産を使っていた。それが解禁となれば“昔の味復活”とアピールできる。やっと報われる、の心境でしょう」(業界関係者)
もちろん『すき家』『松屋』も、この“追い風”を歓迎しているが、関係者は続けて懸念も示している。
「度重なる値下げ競争に消費者が慣れきったことで、今年に入って各社は値下げ競争の幕引きにシフトしつつあった。つまり、牛丼以外の事業で利益を出す作戦です。そんな矢先、政府が牛肉の規制緩和に踏み切れば、再び値下げ競争の血が騒ぎ、体力の消耗戦に突入しないとも限りません」
ただ、これまでと明らかに違うのは「日本人好みの味」とされる月齢の高い牛肉が輸入されることで、価格と味の両面から消費者に厳しく問われること。
消費者が軍配を上げるのは、やはり「安くておいしい」店。果たしてどこが勝ち残るのか。