視聴率分析でわかった朝8時のワイドショー戦争「真の勝者」

春改編で競争が激化した朝8時のワイドショー

新番組を投入したり、MC陣を刷新したりして、各局がしのぎを削っている。
その第一週が終わった時点で、明暗が浮かび上がってきた。視聴率の順位は、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』、日本テレビ『スッキリ』、フジテレビ『めざまし8』、TBS『ラヴィット!』となっている。

しかし広告収入増のためには、スポンサーが欲しい視聴者を多く集めた番組が優位に立つ。

単純な量ではなく視聴者の内実がものを言う時代、真の勝者は誰なのかをデータで分析してみた。

コスト削減と視聴者ターゲットの若返り

朝8時のワイドショー戦争勃発のきっかけは、実はコロナ禍で広告収入が激減したことだった。

電通「日本の広告費」によれば、2020年の地上波テレビは広告費を2000億円ほど失った。前年比マイナス11.3%、2009年のリーマンショックを超える大打撃だった。

これで各局はコスト削減を迫られた。

2020年度第1~3四半期の間に、キー5局は番組制作費を500億円以上圧縮し、広告費減の半分以上を吸収した。21年度も引き続きコスト圧縮は急務で、そこで各局が目を付けたのが出演料の削減だった。

加えて視聴者ターゲットを若年層とし、スポンサーの確保へと向かったのである。

かくしてフジテレビは『とくダネ!』を終了させ、『めざまし8』を始めた。
22年総合司会を務めた小倉智昭(73)から、MCを谷原章介へと(48)と25歳若返らせた。柔らかな物腰でスキャンダルと無縁なため、F2(女性35~49歳)を強化しようとしているように見える。

TBSも『グッとラック!』から、『ラヴィット!』に切り替えた。

司会は立川志らく(57)から、「麒麟」の川島明(41)と16歳若返る。内容も「すぐに手が届く“楽しい!”を提案するライフスタイルバラエティ」となる。
実はコロナ禍のステイホームにより、生活用品業界は売り上げを伸ばしていた。これに合わせて生活情報重視へとシフトし、若年層の強化を狙ったのである。

改編前後の明暗

かくして朝8時のワイドショー戦争が勃発した。

迎え撃ったのは、テレ朝『モーニングショー』と日テレ『スッキリ』。ビデオリサーチ関東地区のデータによれば、月~木の4日間の個人視聴率は、トップが『モーニングショー』だった。

そして2位は、加藤浩次が続投し近藤春菜が降板した『スッキリ』

新参組では『めざまし8』が3位で、『ラヴィット!』は最下位となった。
実は前4週間と、この順位は変わっていない。しかも1位と2位は、新年度になって少し数字を上げている。ところが『めざまし8』は微減、『ラヴィット!』は大きく下落してしまった。特に新スタート4日目にして0.9%は、制作陣には堪えただろう。

改編前の真の実力

そもそも朝8時のワイドショー4番組は、改編前にすでに明暗がわかれていた。
視聴者を層別に詳細に分析できるスイッチ・メディア・ラボによれば、個人視聴率1位の『モーニングショー』は、男女65歳以上で突出することで数字を稼いでいた。要は高齢者向け番組だったのである。

一方2位『スッキリ』は、64歳以下でトップ

特にF2(女性35~49歳)で『モーニングショー』の2.6倍、F1(女性20~34歳)に至っては5倍以上の差をつけていた。

強さの一因は、出演者の魅力とお笑い・バラエティ要素。

結果として生活情報に関心が高く、日常的にスーパーやコンビニなどで買い物をし、二世代で暮らす49歳以下の視聴者が断トツで多くなっていた。

つまり広告主ニーズが最も高い視聴者を同番組はがっちり摑んでいたのである。

実は3位『とくダネ!』も善戦していた。

F1~2(女性20~49歳)では、個人視聴率トップの『モーニングショー』を大きく引き離していた。結果として『スッキリ』同様、広告主ニーズの高い視聴者でも上を行っていた。

ところがTBS『グッとラック!』は、全ての層で低迷していた。

開始1年半での終了も仕方のない実績だったのである。

スタートダッシュから見る今後

この圧倒的劣勢を挽回すべく、TBSは『ラヴィット!』を投入した。

「日本一明るい」と軽妙さを強調し、若い女性が好みそうな商品のランキングを毎日紹介する生活情報番組に徹している。

ところが最初の一週間を見る限り、レギュラー陣をお笑い芸人で固めたせいか、65歳以上の高齢者に逃げられただけで、49歳以下の視聴者は全く増えなかった。
結果として、生活情報層・日常的に買い物層・49歳以下の親子同居層は、『グッとラック!』時代より減っている。

今のところ、狙いは裏目に出ていると言わざるを得ない。

3位『めざまし8』にも不安がある。

谷原章介と永島優実アナ(29)のコンビにはフレッシュ感が漂う。ところが好調だったのは初日だけで、日を追うごとに前4週の数字から大きく下がって来た

一週間平均でF2が2割も減っているのは深刻だ。

結果として広告主ニーズの高い層も軒並み下がっている。

今後反転攻勢に出るためには、取り上げるテーマ・演出・トークなどを見直す必要がありそうだ。

下位2番組に対して、上位2番組は安泰だ。

個人視聴率トップの『モーニングショー』は、相変わらず65歳以上の高齢者特化路線を突っ走っている。変化と言えば、情報ワイド番組に関心のある視聴者をより集めるようになった点。

ただし副作用としては、広告主ニーズを満たす方向には向かっていない点だ。中高年の視聴が多いテレ朝も、徐々に若年層の開拓に動くと聞く。65歳以上の突出ぶりが顕著なこの番組をどうするのか、今後の方針が見ものである。

そして視聴率で2位ながら、コアターゲットで他を圧倒し、広告主ニーズを最も満たす『スッキリ』

新年度一週間では、トラブル続きに見舞われた。初日は上半身起こしで、出来ると言われた女性陣がスタジオで全滅してしまった。その後もクレーンゲームのサーバーがダウンしたり、番組恒例のオープニング企画が急遽中止を余儀なくされたりした。

ところが数々のハプニングを生放送の魅力に替え、最初の一週間はまずまずの実績となった。

F2微減・F1微増と多少の凸凹はあるものの、大きなマイナスは生じていない。強いて挙げれば、多くの男女年層で微減が見られ、結果として広告主ニーズ層もわずかに痛んでいるので、今後その修正をどうするかだろう。

以上の通り、朝8時のワイドショー戦争は、新番組を投入した2局が苦戦し、動かなかった2局が好調さを保った。

ただし視聴率を維持したテレ朝は、広告営業問題を積み残したまま。新番組を投入したフジとTBSは、動いたことで生じるマイナスを今後どう挽回するかで真価が問われる。

これら3番組で新境地がどう切り拓かれるのか、奮闘を期待したい。

文:鈴木祐司(すずきゆうじ)
メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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