視聴率4%なんの「おっさんずラブ」が示した稼ぎ方

<今年のニュース掘り起こし2018>

2018年のテレビドラマ界。その目玉となったのが、4月期のテレビ朝日「おっさんずラブ」だ。平均視聴率4%。数字的には失敗作といわれる水準でありながら、感動コメディーがSNSで社会現象化。ツイッターの世界トレンド1位、流行語大賞、映画化決定など、半年たった今も圧倒的な話題性を放っている。低視聴率でも2次展開でバカ売れ。SNS時代のメガヒットを体現している。

【写真】ドラマでの1シーン

テレ朝の早河洋会長は、「おっさんずラブ」の快進撃を「上期最大の収穫」と評価した。自社イベントや定例会見の場で「平均4%というのは視聴率的には失敗作といわれる数字だが、(勝機の)出口はいろいろあるということを十二分に達成してくれた」。視聴率で直接稼げなくても、動画配信や関連イベントなど、コンテンツの2次展開においてあらゆる可能性を示したことへの評価だ。

テレビ局の収入の柱は「広告収入」。番組のCM枠をスポンサー企業に買ってもらい、その売り上げで会社利益を得る。視聴率が高い番組ほどCM枠は高く売れる。視聴率1%の違いは営業上大きい。

一方、視聴率も頭打ちの中、各局が強化しているのが「おっさんずラブ」が体現した「放送外収入」のジャンルだ。内容は、動画配信やDVDセールス、イベント事業、出資映画からもたらされる収入など。2年前に大ヒットした「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)が、DVD、ブルーレイだけで20億円前後の売上高アップに貢献したケースは大きな話題になった。「おっさんずラブ」も、この分野での売り上げは記録的になりそうだ。

実際、視聴率以外はあらゆる場で記録を打ち立てた。最終回の見逃し配信は121万回再生超えとなり、DVD&ブルーレイの予約数とともにテレ朝史上1位。海外への番組販売は、韓国、台湾、米国など6カ国に及ぶ。シナリオブックなどの出版、「おっさんずラブ展」などの巡回イベント、コミック連載開始などのライツ事業、日めくりカレンダーなどのグッズ販売など波及は全方位。タイトルは流行語大賞のトップ10入りとなり、このほど「劇場版おっさんずラブ(仮)」(来夏公開)の制作も発表された。

SNSからヒットの火が付くここ数年のドラマ界の流れの決定版でもある。キャラクターの魅力、爆笑&号泣のストーリー性、人を好きになる感動が受け手に刺さり、激アツな別れからまさかの次回予告となった6話は、視聴者のつぶやきが殺到。「#おっさんずラブ」がツイッターの世界トレンド1位になった。世界的関心事である「#UCLfinal」(サッカー欧州CL決勝)を抜く快挙に「視聴率3・9%なのに世界規模の話題!」とネットニュースが沸き、社会現象化した。翌週の最終回も世界1位。ツイート数で「逃げ恥」超えを果たしている。

このSNSの勢いが視聴率に反映しないまま、賞や新記録で独自に強コンテンツ化したのが「おっさんずラブ」の特徴的なところ。SNSの「恋ダンス」ブームを発端に人気を上げ、最終回視聴率20・8%のパワーでその後の2次展開を押し上げた「逃げ恥」とは違う流れだ。そもそも低予算の深夜ドラマだったことを考えると、こんな人気の広がり方、稼ぎ方もあると業界に示したインパクトは大きく、新しい。

放送は6月に終わったにもかかわらず、新年1月2日には全話一挙放送(午前6時55分から)も決まり、夏には映画も公開される。おっさん旋風は2019年も続く。【梅田恵子】

◆テレビ朝日「おっさんずラブ」 16年大みそか深夜に関東ローカルで単発放送されて話題を呼び、今年4月期に土曜ナイトドラマ枠(土曜深夜11時15分)で連続ドラマ化。全7話。結婚願望はあるがまったくモテないポンコツサラリーマン、春田創一(田中圭)、豪腕と乙女心を合わせ持つ上司、黒澤武蔵(吉田鋼太郎)、エリートな後輩、牧凌太(林遣都)の三角関係をピュアに描いたラブコメディー。初回視聴率2・9%、最終回視聴率5・7%。

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