観光地の人出回復は「まだら模様」 繁忙期と閑散期で落差も

新型コロナウイルス感染症が感染症法上の「5類」に位置付けられてから8日で1年となる。感染対策が個人に委ねられる「平時」に戻ったが、人と人との交流を制限する「コロナ禍」を経た社会は以前とは異なる姿を見せている。東北の現状を分野別に探った。(6回続き)

キツネ村に訪日客が押しかけ

 宮城県白石市中心部から車で約20分の蔵王山麓に、連日のようにインバウンド(訪日客)でにぎわう観光スポットがある。敷地内で約120匹のキツネを放し飼いしている「宮城蔵王キツネ村」。抱っこ体験のコーナーには、台湾などから訪れた客が長い列を作る。
訪日客が4割
 2023年度の来場者は過去最多の約20万人。動画投稿サイトを通じて人気が沸騰し、訪日客の割合は約4割を占めた。コロナ禍前の19年度に比べて3割以上増え、佐藤光寛社長(73)は「いつまで続くか分からないが、予想を超えるブーム」と実感する。

 コロナ禍で一時的に減った来場者は、政府が5類移行の検討を本格化させた22年12月ごろから回復。今年1、2月は雪景色目当ての訪日客を中心に月3万人を超え、敷地内は大混雑した。

 ゴールデンウイーク(GW)期間は「駐車場の確保が難しい」として、バス会社に団体での来場を自粛するよう呼びかけた。佐藤社長は「お客さんは月1万5000人ぐらいがちょうどいい規模。キツネにストレスがかかり過ぎないよう管理する必要もある」と過熱ぶりを警戒する。

 5類移行後、全国の観光地は活況を取り戻し、一部では交通混雑などオーバーツーリズム(観光公害)が顕在化する。ただ、人出は三大都市圏など特定の地域に偏り気味。東北でもまだら模様の状態が続いている。

冬は好調だが…

 東北観光推進機構(仙台市)の紺野純一理事長は「訪日客は確実に戻っているが、東北を訪れる国内旅行者の数は他地域に比べ回復が遅い。もっと東北全体が目的地となるような情報発信が必要だ」と指摘する。
通年型を模索
 繁忙期と閑散期の落差に悩む地域もある。樹氷やスキーが楽しめ、冬のリゾート地として知られる山形市の蔵王温泉。地元の飲食店主の男性(44)は「冬は駐車場から車があふれる状態だったが、雪が解けると、さっと引いた」と嘆いた。

 蔵王温泉観光協会によると、23年度の宿泊者数(参考値)は約26万人。冬の好調ぶりを背景に、年間では19年度の27万9479人に迫る勢いだったものの、春から秋は19年度比の5~8割台にとどまった。

 協会は通年型リゾートへの転換を図ろうと、21年度から観光庁の補助事業を活用する。約80の事業者が施設改装を進めながら、おもてなしに磨きをかける。

 老舗温泉宿「最上高湯 善七乃湯」は、貸し切り風呂を四つから七つに増やし、大浴場に接する露天風呂を改装した。訪日客にも配慮し、湯あみ着で入浴できるスタイルに改めた。

 「ブランディングに力を入れ、年間を通じて質の高いサービスを提供したい」。岡崎善七社長(55)は宿泊客の本格回復を見込み、新たな一手を模索する。
(経済部・小沢邦嘉、樋口汰雅、山形総局・奥島ひかる)

 [メモ] 東北運輸局によると、2023年の東北の宿泊者数(速報値)は延べ3748万9440人で、22年に比べ13.2%増加した。ただ、コロナ禍前の19年比は14.2%減となり、全国10の地域ブロックで最大のマイナス幅を記録した。

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